なんもせず、決めつけない。だから見えてくる人と生き方の多様なあり方【後編】

「働く」を考える。

2019/11/27
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レンタルなんもしない人」をご存知でしょうか? Twitterを通して、その名の通り「なんもしない」ことをサービスとして提供している人物です。Twitterの本人プロフィール文には、「なんもしない人(ぼく)を貸し出します。常時受付中です。1万円と、国分寺駅からの交通費と、飲食代等の諸経費だけ(かかれば)お支払いいただきます。お問い合わせはDMでもなんでも。飲み食いと、ごくかんたんなうけこたえ以外、なんもできかねます。」とあります(原文ママ、2019年11月現在)。

依頼内容は、ホワイトボードで人生設計を立てるところを見届けてほしい、というものや、人と食事をするのが苦手だから克服するためにつきあってほしいというものなどさまざま。けれど本人はあくまでなんもせず、そこにいるだけなのです。「将来、AIから仕事が奪われる!」と戦々恐々としている世の中の空気などどこ吹く風。そんな軽やかな生き方は大きな反響を呼び、依頼が続々と舞い込むように。 Twitterで時の人であるレンタルなんもしない人に、独自の生き方について話を伺いました。

世間には認識されづらい人が存在する。依頼を通して出会った人と価値観

――男女比や年齢層など、どんな層の方から依頼が来るのですか?

女性のほうが多くて、依頼者の8割くらいは女性です。年齢層は20〜30代くらいが中心。サービスの需要としてというよりも、単純にTwitterでしか受け付けていないからかもしれません。とはいえ、40代以上の方からの依頼も少なくないです。

性質としては、ユニークな内容の依頼を意識する方から、交友関係は広いけど、この話だけは誰にもできないなど、ピンポイントで寂しさを抱える方までさまざまです。

――レンタルなんもしない人さんは、依頼を通して気づいたことをTwitterでツイートされていますよね。やはり多種多様な依頼を受ける中で、いろいろと気づきがあるのでしょうか。

気づきというほどではないですが、活動をしていると、何事も決め付けることはできない、とは思います。

例を挙げると、以前、セクシャルマイノリティーの中でも「アセクシャル」という、誰にも恋愛感情を抱かず性的欲求も湧かない、という方からの依頼がありました。その方は、恋愛したり結婚したりしている人がどういう感覚なのかを知りたがっていて、結婚している僕に話を聞きたいと。

僕からしたら、恋愛感情や性的欲求がないという感覚が不思議でした。J-POPって恋愛の歌ばかりですよね。「それをこの人はどんな感覚で聴いているんだろう?」と思いました。

――確かに気になりますね。

それくらい世の中のものは恋愛が前提でつくられていて、僕もその常識に浸かっているわけです。でもその依頼を通して、そうじゃない人がいる、というのを知って「本当に世の中にはいろいろな人がいるんだ」と実感しました。

その方と会って、僕自身が抱えている人と違う部分や、それによって生きづらさを感じている部分も、もしかしたら何か名称がつくような、自分では抗えない性質なのかもしれないと感じたんです。そして僕が知らないだけで、世の中には世間には認識されづらい性質の人やものごとが、もっとたくさんあるんじゃないかと思うようになりました。だからこそ、この活動を通して「最近の社会はこうだ」なんて、結論めいたことは言わないようにしています。

レンタルなんもしない人
1983年10月22日生まれ、兵庫県出身。大阪大学大学院を卒業後、通信教育用の理系教材の執筆・編集の仕事に就くも、会社員が向いていないと実感し退職。フリーライターに従事した後、2018年6月から「レンタルなんもしない人」として、何もしないサービスの提供を開始。依頼者が行きたい場所に同行したり、作業を見守ったりなど様々な依頼を受けるように。2019年6月からサービスを有料化し、現在は一律1万円と諸経費で依頼を受けている。プライベートでは既婚で、長男がいる。

――世間には認識されづらいけれど、この活動だからこそ出会う人たちがいるわけですね。だからこそ、社会を一括りにはできないと。他に活動を通して、考えや価値観が変わった部分はありますか?

レンタルなんもしない人の活動を始めたきっかけの1つとして、「人は存在すること自体に価値があるのではないか?」という考えがありました。当初は、それを確かめたいという気持ちがあったのですが、僕がTwitterである程度有名になったことで、もう検証することはできなくなったと思っています。存在することに「有名である」という価値がくっついてしまったので……。人から「お前に依頼が来るのは、有名になったからじゃないか」と言われることがあって、確かにそこはもう切り離せない部分だなと思っています。

学生時代から“何かする”ことにしんどさがあった

――ご自身は、活動をする中で何か得たことはありますか?

やっぱり有名になったことですね。あとは、依頼者からいろいろな話を聞いて知見が増えたことや、自分1人では行かなかった場所に行けたこと、映画や舞台鑑賞に同行して興味の外側にあるコンテンツに触れたことなど、いわゆる経験値が増えました。

――そういった経験を、今後また別の活動に活かしていこうという思いは?

活かすというと何かをする感じになるので、積極的に活かしていきたいとは思わないですね。

学生時代、僕は理系で大学院に行っていたんです。そこでの研究は楽しかったんですけど、教授に「論文を書いて世の中に発表しないと、存在していないのと同じだ」と言われて。それはそうなんですけど、僕にとってはしんどさがあって。研究して、わかったことをただ自分の中に蓄えるのが楽しいので、社会に発表なんかしたくないんですよ。それと同じ感覚かもしれません。

――そこは、学生時代から一貫しているんですね。

レンタルなんもしない人の活動も、何かにつなげたいと思ってしているわけじゃないんです。だから、ツイートする以上の形で自ら何かを発信するのは、面倒で考えるだけで嫌ですね。

これまで僕の活動に関する本は3冊出ていて、どの本も極力何もせず編集者にお任せする形でつくってもらっています。


2019年7月に発売された、さまざまな依頼内容のエピソードを集めた「レンタルなんもしない人のなんもしなかった話

――ベースはどこまでいっても“なんもしない”ところにあるんですね。世の中には、何かをしていないと気が済まない人も一定数います。レンタルなんもしない人さんは依頼中、本当に何もしない時間はどう過ごしているのですか?

作業を見守るタイプの依頼内容の場合、依頼者が気を遣ってマンガを持ってきてくれることもありますが、基本的には本当になんもしてないですね。TwitterでDMを返すこともありますが、スマホを使わないときはぼーっとしたり、部屋の内装をただ見たりしています。

――デザインやインテリアを?

いえ、もっと細かいところをぼーっと見ています。かといって、材質がどうとか考えているわけじゃなくて、何も考えていません。ただ見るだけ。

――それはなんもしてないですね(笑)。何かしたくなってしまうときは?

時間が限られている中で依頼者と一緒に目的地に向かうとき、依頼者が道に迷っていたら、僕もスマホで道を調べて「こっちじゃないですか?」と言うときはあります。でもよっぽどでなければ、ふだんはなんもしません。

安易に結論には至りたくはない

――レンタルなんもしない人さんが有名になって、似たようなことを始めている人もいますよね。そうした方々のことは、どう思いますか?

最初の頃は、真似されるのは光栄でした。でも、僕が有名になってから真似する人はどうかなと思います。それに、この活動はそのまま誰かに当てはめられるものではないと思うんです。僕がプロ奢ラレヤーさんの活動をそのまま真似したわけではないように、それぞれに適したやり方があるんじゃないでしょうか。その中で、広い意味で「なんもしない」というスタンスが普及すればいいな、とは思います。

――レンタルなんもしない人を始める前は、カフェでノートを広げて「何か書かなきゃ」とものを書くことへの未練があった、とおっしゃっていました。その思いはもうなくなりましたか?

なくなりましたね。「何かしなきゃ」って思いは今は消えました。それに、活動でも最初の頃は、依頼者が大きな荷物を持っていると「荷物を持ってあげたほうがいいかな?」と思っていました。でも、今では堂々と無視できるようになったんです。女性の依頼者と一緒に道路を歩いていても、堂々と歩道側を歩きます。ずうずうしさのスキルは上がった気がしますね。

……ただ、今の僕はそこそこ有名になったことで、依頼者から「依頼しても安全そうだから安心できる」と思われたり、妻と別居していると言っても、まだ結婚していて子どももいると言われたり、世の中的に“いい”とされている価値を身にまとい過ぎているんですよ。だから、それをはぎ取ったらどうなるんだろう、という興味があるんです。

――えっ。はぎ取る、ですか。

だからといって、悪いことはできないんですけどね。世の中の人は、なんでも自分の価値観に当てはめようとするので、「レンタルなんもしない人に需要があるのは無害で安全そうなやつだから」とか、「有名だから」とか理由を挙げて、「その辺の小汚いおっさんがやったら需要がない」なんて言うんですよ。それがなんか悔しいな、という思いがあります。だから、たまに「Twitterアカウントを消してみようかな」という考えが頭をよぎることがあります。

――安定が嫌いなんですね。

軌道に乗ると、軌道から外れたくなるんですよ。僕に関して、何か結論じみたことをTwitterで言われるとイライラしますし。安易な結論に至るのが嫌なんです。

――飽きることへの嫌悪感があると。

そうですね。もともと飽き性なので。その点、この活動そのものはいろいろな人に常に出会えるので、飽きなくていいですよ。


レンタルなんもしない人さんの著書

レンタルなんもしない人のなんもしなかった話
著者:レンタルなんもしない人
出版社:晶文社
発売日:2019/4/17

レンタルなんもしない人
原案:レンタルなんもしない人
漫画:プクプク
出版社:講談社
発売日:2019/7/23

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