「レンタルなんもしない人」という距離感のマネジメント。「何かしなきゃ」という価値観に抵抗する【前編】

「働く」を考える。

2019/11/26
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レンタルなんもしない人」をご存知でしょうか? Twitterを通して、その名の通り「なんもしない」ことをサービスとして提供している人物です。Twitterの本人プロフィール文には、「なんもしない人(ぼく)を貸し出します。常時受付中です。1万円と、国分寺駅からの交通費と、飲食代等の諸経費だけ(かかれば)お支払いいただきます。お問い合わせはDMでもなんでも。飲み食いと、ごくかんたんなうけこたえ以外、なんもできかねます。」とあります(原文ママ、2019年11月現在)。

依頼内容は、ホワイトボードで人生設計を立てるところを見届けてほしい、というものや、人と食事をするのが苦手だから克服するためにつきあってほしいというものなどさまざま。けれど本人はあくまでなんもせず、そこにいるだけなのです。「将来、AIから仕事が奪われる!」と戦々恐々としている世の中の空気などどこ吹く風。そんな軽やかな生き方は大きな反響を呼び、依頼が続々と舞い込むように。 Twitterで時の人であるレンタルなんもしない人に、独自の生き方について話を伺いました。

活動を始める前に「何かしないといけない」という強迫観念があった

――「レンタルなんもしない人」のサービスを始めたきっかけは、なんだったのでしょうか?

去年の2018年6月に、TVで「プロ奢ラレヤー」さんという、Twitterのフォロワーなどから奢ってもらう形で、他人のお金で生きていく活動をしている人の特集を見たことですね。番組を見て、面白いなと思ったんです。ただ、彼を見てそう思った人はたくさんいると思います。その中で、どうして僕がこの活動に踏み切れたのかは、自分でも正直わからないですね。なので一言でいうと、なんとなくです。

――レンタルなんもしない人を始めるまでは、どんな仕事をしていたのでしょうか。

もともとは、執筆や編集の仕事をしていました。でも毎日会社に出勤して働くことが向いていなかったので、会社を辞めて、「フリーランス」とかっこいい肩書きを名乗っていました。ただ収入は不安定だったので、恐怖の日々でした。

――この活動を始めたきっかけとして、もともとの仕事や働き方に不満を持っていた、という部分も大きかったのですか?

いや、不満を持っていたというより、働くことを諦めていました。不満を持つほど上昇志向が強くはなかったので。「もう仕事はできないな」と思ってからは、ぼーっとしたり、散歩に行ったりしていました。ただ、「僕は文章を書くことは向いているんじゃないか?」という未練は残っていたので、カフェでノートを広げてペンを握りしめ、何か書こうとしていた時期が半年ほどありました。結局、何も書けませんでしたけど。

――その頃は「何かしないといけない」という強迫観念があったんですね。

そうですね。でも、いろいろな本を読む中で「何もせずただ存在することにこそ、価値があるんじゃないか?」という考えも浮かんでいました。

レンタルなんもしない人
1983年10月22日生まれ、兵庫県出身。大阪大学大学院を卒業後、通信教育用の理系教材の執筆・編集の仕事に就くも、会社員が向いていないと実感し退職。フリーライターに従事した後、2018年6月から「レンタルなんもしない人」として、何もしないサービスの提供を開始。依頼者が行きたい場所に同行したり、作業を見守ったりなど様々な依頼を受けるように。2019年6月からサービスを有料化し、現在は一律1万円と諸経費で依頼を受けている。プライベートでは既婚で、長男がいる。

依頼を受ければ受けるほど“なんもしない”で済むように

――実際にレンタルなんもしない人を始めてから、最初の依頼はすぐに来たのでしょうか?

すぐに来ました。サービスを始めると告知したのが2018年の6月2日で、その夜か明け方には、もともとTwitterで相互フォローをしていた有名な方がリツイートして拡散してくれていたので、ダイレクトメッセージがけっこう来たんです。本当に依頼が来たことに戸惑いはなくて、むしろうれしかったですね。

――そこから、毎日どれくらいの依頼を受けているのでしょう。

始めた当初は、ほとんど毎日依頼の予定が入っていました。1日何件受けるか、という限度は設けていません。受けた依頼内容をツイートすると、それがたまに反響を呼んでフォロワーが増える、というサイクルを繰り返してきて、フォロワーが増えるごとに毎日2件、3件と増えていって、今は毎日3〜4件くらい予定を入れています。

――レンタルなんもしない人としての活動を求められるほど、ある意味なんもしないという活動の予定が増えるわけですよね。それは逆に、することが増えたようにも捉えられると思います。忙しい、とは感じませんか?

それはないですね。むしろ僕は、依頼の予定を詰め込むほど楽に感じるんです。僕にとっては、なんもしない時間が増えるわけなので。もし移動や予定調整が過剰に発生したら、何かしている気分になると思いますけど、今のところはそういったストレスはないですね。

むしろ、「家に帰らないといけない」とか、そういった理由で活動にブレーキがかかるほうが逆にストレスになります。

――それは少しわかるような気がしますね。いろいろな依頼が来ると思うのですが、依頼を受けるかどうかは精査しているのでしょうか?

精査している、というほどではないですね。“なんもしない”という定義から外れる依頼や怖そうな依頼、怪しかったりしんどそうだったりする依頼をお断りしているだけで、実際は幅広く受けています。

結果として、依頼者から寛容な雰囲気や僕の活動を理解してくれている感じがメッセージから読み取れた場合に受けているので、実際に会ったときに何かトラブルになったりハードな交渉が必要になったりすることもないですね。

学生時代からネット漬けで、文章を書く仕事を長い間続けていたので、ネット上で怪しい人とそうでない人を見分ける目は、人より身についているかもしれないです。

名前のついていない関係性を大事にする、距離感のマネジメント

――レンタルなんもしない人の活動は、奥様からの理解と貯金があるからこそ続けられていたそうですね。貯金や資産運用については、何か意識されていたのでしょうか?

貯金を始めた当初は、特に何も考えずにお金を貯めていました。僕はお金をゲームでいうところのHP(ヒットポイント)みたいなものだと思っていたので、「減ったらヤバい。貯金が底をつくと死ぬ」と思っていたんです。でも、プロ奢ラレヤーさんがネットで「お金はHPだと思っちゃいけない、MP(マジックポイント)だ。お金を使って何をするかだ。貯めることはみんなできるけど、上手く使うにはセンスが試される」という内容のことを話されていて。確かにそうかもしれないと思ったんです。それからお金を貯めるよりも、使う方向に頭を使うようになりました。

この活動も当初はサービスとして無料で始めましたが、お金を取らないということは、自分の貯金を崩して生活することになるので、お金を使って行う活動ということでもあったんです。

――そういう考えがあったんですね。

ただ、以前から「無料だから依頼が来るだけだ」と言われることがあり、それは違うと思ったので、今年の2019年6月からサービスの提供を有料制にしました。まだ有料にして間もないですが、それでも依頼がある程度来ているので、無料じゃないと依頼が来ないわけではなさそうです。むしろ、お金を払うほうが依頼しやすいという人もいるみたいで。

でも、僕のほうはちょっと気合いが入ってしまいました。といっても、遅刻しないようにしなきゃとか、DMの返信を雑にしないようにしなきゃ、くらいですけど。

――有料制にしたのは、大きな変化ですね。この活動のモチベーションは、どこにありますか?

それはいろいろあって、依頼内容をツイートすると反響があることもそうだし、フォロワーが増えることもそうです。初対面の人と会うこと自体も面白いですね。

――なんもしないことが好きでありつつ、人と会うのも好き、というのは少し意外な気がしました。

手当たりしだいに人に出会いたがる、「出会い厨」だと誤解されたくはないんですけどね。もともとこの活動を始める前から、「哲学カフェ」という見ず知らずの人同士が集まって、「幸せってなんだろう?」みたいな抽象的なテーマについて話し合うイベントにはまっていた時期があったんですよ。ふだん接点のない人と話す、ということ自体が好きなんです。

――一期一会だからこその良さがあると?

うーん、「一期一会」という表現はあまりしたくなくて。なんだか言葉の響きが気持ち悪い感じがするのと、レンタルなんもしない人の活動では、1回に限らず依頼をいただいてまた何回か会うこともあるので。

あと、関係性に名前がついていないことが楽なので、そうやって何回か会う方も常連さんではなく、単に「サービスを何回か利用している人」、と捉えています。それ以上の関係性はないし、お互いに一定の距離感を保っていられる方からしか依頼を何回も受けていません。

――なるほど。あくまで馴れ合ったり踏み込んだりはしない関係性なんですね。

はい。この活動は言うなれば、旅行のような感覚です。東京の中でいろいろな人の人生をそのときどきで旅するような。

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