【後編】「“なくし”た先に見つけた自分」・みうらじゅん

失敗ヒーロー! 第二回(後編)

2017/03/07
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ネーミングしたネタを仕事にまで持っていくには、そのネタを広めていくタレントがいなきゃいけない。“一人電通”の場合、そのタレントも僕なんですね。だって僕しかいませんから

『「ない仕事」の作り方』のヒットも「誤解」が生んだ

――先ほどのお話(前編)にも登場した『「ない仕事」の作り方』。「みうらさんがビジネス書を出すなんて!」と、驚いた方も多かったのではないでしょうか? 

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みうらじゅん
1958年生まれ、京都府出身。武蔵野美術大学在学中の1980年に漫画家デビュー。その後イラストレーター、作家、ミュージシャンなどさまざまな分野で活躍。“マイブーム”や“ゆるキャラ”といった流行語を生み出し、サブカル界の代表的存在に。現在、映画『ザ・スライドショーがやって来る!「レジェンド仲良し」の秘密』が絶賛公開中。著書に『「ない仕事」の作り方』『されど人生エロエロ』『マイ仏教』など多数。

みうらじゅん(以下、みうら) これも誤解の産物。仕事ってさ、基本的に楽しくないじゃないですか? 誰だって苦手意識がありますよ。そこで苦手なことでも面白くやっていけるような、「自己救済のための教則本があってもいいんじゃない?」というところから始まった企画なんです。だから、ビジネス書とか、自己啓発本のコーナーに置かれるようなものじゃないといけません。

――実際、ビジネス書や自己啓発本のコーナーに並んでいますよね。
 
みうら それはうれしいです。出版後には今まで取材に来たことのないような方々が、たくさん来てくださいました。自分の手の内を明かすような内容が書かれているわけだけど、みんな「仕事」ってフレーズには引っ掛かるんじゃないですかね。そこに誤解を生むような、「ない仕事」という伸びしろを入れてね。

僕、これまで何冊と単行本を出しているんですけど、タイトルに「仕事」ってフレーズが入っている本は、この一冊だけですから。さらに表紙の感じもわざとビジネス書っぽくしてね。なんとなく信憑性が高そうだから、プレゼンする先の版元も文藝春秋さんじゃなきゃと。僕はサラリーマンじゃないですから。“サラリー”はなくて、単なる“マン”でしかない。さらに、その“マン”、男であることすら加齢で危うくなってきていますから(笑)。どうにかして騙そうと必死ですよ。

――騙すなんて、また(笑)。みうらさんは、どこかでサラリーマンに憧れがあったりするんでしょうか?。  

みうら なんてったって、「オフィスラブ」があるじゃないですか(笑)。

タレントもマネージャーも一人で務める“一人電通”

――そこなんですか(笑)。拝読させていただきましたが、“一人電通”におけるプレゼンを通す方法論や接待の大切さと、勉強になることばかりでした。 
 
みうら “一人電通”って言葉が、そもそも造語だから。存在しないものに名前を付けるのが僕の仕事。だけどネーミングってすごく重要で、特に日本語って言霊っていうでしょ。名前を付けただけで、ないものがあるように思えてくる。“ゆるキャラ”も一緒です。ただ、ネーミングしたネタを仕事にまで持っていくには、そのネタを広めていくタレントがいなきゃいけない。“一人電通”の場合、そのタレントも僕なんです。だって僕しかいないから(笑)。

広め方にしても、何でもかんでも表に出て宣伝すればいいってわけじゃない。たまにサンタクロースのようにね、お金のいいCMの話を持ってきてくれる人がいるんです。僕だって人間ですから、金額とか聞くとクラッとしますよ(笑)。だけど、どんなにお金がよくても宣伝になろうとも、“タレントみうらじゅん”に対して「いや、みうらさん、今回はちょっとやめにしておきましょうよ」って、タレントイメージをマネジメントしている僕もいるんですよ。

一つひとつを諦める“自分なくし”の果てに残る“自分”

――タレントもマネージャーも一人で務める“一人電通”の一方、『「ない仕事」の作り方』では、「小学生のころから“発注”をしていた」というお話も非常に印象的でした。自分ではない誰かの力を借りるという。 
 
みうら 小学校4年生のときに『ケロリ新聞』という新聞を作っていたんです。新聞部でもないのに、勝手にね(笑)。ただ新聞に挿し絵を入れるにも、僕は絵を描くことが好きだけど、けっしてうまくない。それが分かっていたから「だったら絵が得意な友達に頼めばいいし、文章は頭のいい友達に任せればいいじゃない」って思いついたんです。そうしたら、新聞部が作る新聞以上にウケちゃって。勝手に作っているもんだから、「新聞とはこうあるべきだ」という常識がないでしょ。編集長っていう権限で、僕の好き勝手なことが書いてあるから面白いわけで。そのときに味を占めたんだと思いますね。

――けれど子ども時代ならなおさら、「不得意」を認めることって難しいですよね。大人になっても認めることが怖い人は少なくありませんし。 

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みうら  僕は、それこそ小学生のころから何の根拠もなしに「自分には絶対的に向いている何かがある」と信じ込んできたから、逆に向いていないことに対してペケを付けていく作業が自然と身についていたんです。どんどんペケを付けていった先に、「残ったものが、絶対的に自分に向いている何かだろう」と。その作業を言い換えると「自分なくし」なんです。みんな、「きっと自分にしかできない何かがあるはずだ」って自分探しをするけど、その逆でね。一つひとつに対して諦めていく。

「ここにはいらない人間なんだ」と就活で諦めた

――「諦める」というと、どうしても後ろ向きのイメージが付きまといますよね。「諦めないことが大事」という風潮もありますし 
 
みうら  仏教用語では「諦める」って、「明らかにする、真相をはっきりする」って意味だから。「はっきりする」って、すごくいいことで、たとえば僕、就職試験に落ちたことで「ちゃんとした世間からは、必要とされない人間なんだ」って、はっきり気づけましたから。きちんとスーツも着ていったし、長かった髪も切って、自分では会社に合わせたつもりだったけど。それなのに「この人はきちんとした社会に向いていない」っていうことが、バレちゃったんでしょう(笑)。

でも、あのとき就職試験を受けず、何の気づきもなしにフリーになっていたら、きっと続かなかったと思いますよ。あそこで「ここにはいらない人間なんだ」ってことがはっきりしたおかげで「やっぱり、どこかに就職しなきゃ」なんて、その後一度も考えることなく、ここまで来れたわけですから。

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