2015/12/16 公開

フィリピンでは従業員が神様?70年代日本の手厚い人事制度がリテンションのカギだった

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ビジネスもボーダーレスの時代。最近では、事業の本拠地を海外に移す「オフショア」などが流行し、中小様々な企業が世界に進出するようになりました。

異国の地で事業を展開する際に鍵を握るのは、現地の外国人のマネジメントです。とはいえ、言葉、文化、労働意識が異なる海外で外国人社員に対してどう接するのか、指導をするのか悩む方は多いでしょう。

その問題に一つの解を示してくれるのは、フィリピンでの人事経験を持つAさん。現地の他の企業もこぞって参考にしたいと言った、海外での人材マネジメントのノウハウをご紹介します。

人事の仕事は社員のリテンション!70年代の日本の施策が社員を惹きつける

-Aさんが以前いらした会社には、フィリピン国籍の従業員を中心に様々な人種のメンバーが集まってたとお聞きしています。まさに、「人種のるつぼ」ともいえる組織での人事業務とはどのようなものだったのですか。

A:まず、日本とフィリピンでは、人事の役割自体が大きく違うということが言えると思います。人事は、会社と従業員の間に立つコミュニケーションの窓口であり、個々の不満に対応することがかなりのウェイトを占めていましたね。

とりわけ、フィリピンはアメリカ型のカルチャーに影響を受けているので、転職率が高い。日本の企業が進出してきて、一番苦労するのが社員の離職の問題です。だから、いかに育て上げた人材をリテンションするかということが重要なファクターであり、人事としてそのための施策に力を注いでいました。

社食

-人材をいかに会社に根付かせるかということですよね。具体的にはどのような施策を行ったのですか。

A:結論から言うと、古き良き日本の福利厚生を取り入れました。現在、フィリピンのGDPは1970年代の日本の水準と一致しているのですが、不思議なことに従業員の望むことがその時代の日本人の欲求と驚くほどマッチしているんですよ。例えば、車が欲しい、家を建てたい、旅行に行きたいとか・・・。

だから、かつての日本を参考に、まず社食を出すということをしました。遅刻せずに出社した人に朝食を出し、それとは別途に昼食も用意しましたね。食事の場がコミュニケーションのハブとなり、「同じ釜の飯を食う」ということで、国籍の違うメンバーの間に親近感も生まれたようです。

他にも、自社のロゴのついたポロシャツを支給したり、皆勤手当として一か月分の給料を支給したり・・・愛社精神を培うために色々なことをしましたね。とりわけ、一年に一度リゾート地を借りて行う社員旅行は、メンバー同志の交流の場にもなり、社員の評判も高かったです。結果的に、日本の古き良き時代の施策がうまくハマったと思いますよ。

10分遅刻は当たり前、仕事が残っていても定時に帰る

-文化や常識、話す言語が違うということで、何か問題が生まれたりということは無かったのですか。

A:言語の問題は大きいですね。社内では一般的に英語が使われていましたが、お互い母国語ではないので、ミスコミュニケーションの問題がありました。

とりわけ日本人側は、英語でのマネジメントが得意ではない。英語での表現が強すぎて、結果的にスタッフが泣いてしまったり、場合によっては辞めると言い出す人も出てくるという始末です。

だから、コーチングする時は必ず人の見えない別の部屋でというのが基本。「こうしてほしい」ではなく、「僕はこう思うがどうだろう」というように誘導しなければなりません。日本で普通に行われているような、人前で詰め寄るようなことは絶対NGでしたね。

叱る

-言語の違いだけでなくて、国民性の違いという負荷もかかってくるということですよね。

A:そうですね。労働意識の違いというのも大きな壁でした。フィリピンでは10分の遅れは遅刻に入らないことも多く、当初は6、7割の社員が遅刻するという状況が続いていました。また、例えプロジェクトが滞っていても、頼まなければ皆定時には帰ってしまう。だから現場の工数管理は非常に大変だったと記憶しています。

海外では、文化の違いや、微妙な意識の違いが大きな事件へと発展しかねません。サービス残業一つとっても、社員はすぐ労基に訴え出てしまいます。だから留意しなければならないあらゆる事柄を記した対策マニュアルを作って、赴任者に配っていました。

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ジェスチャー

-事件にまで発展するとは物騒ですね。今まで「これはピンチだった」というような事件はありましたか。

A:先ほど「10分の遅れは遅刻に入らない」という話をしましたが、あまりにも遅刻をする部下に、ある人が親指をたてて首の前で並行に動かすジェスチャーをしたんですよ。もちろん『お前はクビだという』意味を込めて。

しかし、フィリピンではその動作は『お前を殺す』というメッセージになるようで、皆びっくりしてしまいました。よくよく考えてみれば、解雇を表す『fire』という言葉は、身体の首に何ら関係ない。日本特有の解釈だったみたいですね

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マネジメント まとめ

-最近では、日本でもオフシェア開発をするようなことが流行っていると思うのですが、お話を聞いているとメリットばかりではないのかなという印象です。

A:一般的に物価の安い東南アジアに拠点を置くオフショア開発は、低コストで良いというイメージがあると思います。しかし、実際にはコミュニケーションの問題もあり、日本では想定もしないような問題が起こる。品質や納期も日本と同じようにという訳にはいきません。コストの問題だけ考えれば、地方都市の方がよほど良いということもあるでしょう。

ただ、全世界向けのサービスを展開するという場合には、コストが安い英語の文化圏であるフィリピンを足掛かりにする意義があるのかなと。実際に自分の会社も、北米版のゲームを開発する際には、現地のスタッフに企画から開発までやらせていました。

ともあれ、海外を拠点にする際は、コストが安いということだけでなくその他の要素も加味して判断する必要があると思います。

-確かに、マネジメントにしても一からノウハウを積み上げなければならないことを考えれば、一概にコスパが高いとは言えませんよね。

A:本当にそうですね。スタンダードが分からないから、何が正解かもわからない。失敗してもめげないで、自分たちがベターだと思ったことコツコツやることが大切だと思います。

そのために人事の機能を日本のようにがっちり固めてしまわないことが重要ですね。

失敗のデフォルトから経験を積み、柔軟にマネジメントの戦略を立てていく必要があると語るAさん。その業務内容も、日本における人事の枠組みをはるかに超えているといえるでしょう。

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