2017/02/13 公開

「慕われる人間」の条件とはー西郷隆盛<前編>

人と歴史の動かし方~古のリーダーたちのマネジメント術~その5

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部下に慕われたい、という願望をお持ちの方は多いと思います。あるいは、慕われようと振るまっているのに、どうも上手くいかない、という悩みを持っている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
そんな人がきっと憧れるに違いない人物は、「西郷隆盛」です。
西郷隆盛は薩長同盟を結び江戸城を無血開城させた、言わずと知れた明治維新の立役者です。西郷は実に不思議な人で、会う人話す人を虜にし、「西郷さんの話であれば聞いても良い」と敵に思わせるほど、とにかく人に慕われた男でした。この「人に慕われる能力」が、彼を国家の英雄に導き、同時に破滅へと向かわせていきます。日本史上稀に見る「慕われ力の持ち主」に、リーダーシップの鍵を学ぶのが今回の趣旨です。

とにかく人に慕われた西郷隆盛

西郷の顔や性格もキャラクターのように親しみの持てるものだったようですが、それ以上に彼の行動や思考は同時代の人の心を掴んで離しませんでした。
現代でも磁石のように人を惹きつける人物はいますが、西郷のそれは桁違いだったようで、敵味方にかかわらず、人を惹きつけてやまなかったようです。それは日本を尊皇開国に導き明治維新を達成させる上で大きな役割を果たしました。
鳥羽伏見の戦いが終わった後、薩摩藩士の世論は尊王攘夷が圧倒的でした。これでは未来がないと悟った西郷は、尊王攘夷派の藩士たちの前で平然とこう言ってのけます。

「薩摩藩は尊皇開国で行きもす」

藩士たちは驚きましたが、「西郷どんは嘘をつかない」「間違っていたのは自分たちに違いない」と思い、尊皇開国をなすべく兵を進めたのでした。
このように同じ薩摩藩士は西郷に絶大な信頼をしていましたが、一方で幕府方や薩摩に敵対する人物も西郷の言うことであれば耳を傾けました。西郷は敵味方の利害や恨みを超えて人を団結させる力を持っていました。

敵にも慕われた西郷の人柄

第一次長州征伐の直前、戦争を回避すべく西郷は岩国の吉川経幹と直談判し「三条実美以下、都落ちした五卿を藩外に移す」などの諸条件をまとめました。しかし薩摩藩と長州藩は「蛤御門の変」や「八月十八日の政変」で敵対しており、長州藩士の間では反薩摩感情が根強くありました。
高杉晋作などの尊皇攘夷の強硬派は「五卿の移送」に徹底抗戦の構えを見せたため、「武力征伐を望む幕府の思うつぼ」と焦る西郷は、長州藩部隊の本部がある下関に乗り込み、幹部と直談判しようとしました。
そして途中の小倉まで来たところで出会ったのが、土佐脱藩藩士の中岡慎太郎です。中岡も薩摩藩に強い敵意を抱いており西郷を刺し殺そうとやってきたのでした。しかし、目の前の大男と話すうちに次第に敵意が薄らいできて、殺意もなくなり、なんと自分たちの不安や懸念まで正直に吐露し始めたのです。
中岡の正直な告白に対して西郷は、「自分が五卿の身の安全を保証する」と約束しました。中岡はその誠意ある人柄に心打たれ、自ら長州藩士の説得を買って出るとまで言い始めたのでした。結局、長州が西郷の呼びかけに応じたことによって第一次長州征伐は中止され、これは後の倒幕の原動力となる薩長連合の布石となっていきます。
中岡はこの時の印象を手紙にこう書いています。

人となり肥大にして後免の要石にも劣らず。(中略)この人、学識あり胆力あり、常に寡言にして最も思慮深く雄断に長じ、たまたま一言出せば、確然、人の肺腑を貫く。かつ徳高くして人を服し、しばしば艱難(かんなん)を経てすこぶる事に老練す。(中略)。実に知行合一の人物なり。これすなはち当世洛西第一の英雄に御座候。(北泰利『西郷隆盛 命もいらず 名もいらず』(ワック株式会社、2013年)より孫引き)

殺そうと思っていた人物をべた褒めさせるほどの「人間力」。この「人に慕われる力」によって西郷は時代を動かしていくのですが、皮肉なことにこれが原因のひとつとなり最後は身を滅ぼしてしまいます。

1873年、征韓論に敗れた西郷は職を辞して鹿児島へ帰国したのですが、彼を慕う薩摩出身の政治家や軍人も続々と西郷に倣って帰国していきました。例えば陸軍中佐だった淵辺群平は、西郷が帰国したというニュースを聞くと陸軍省から自宅へ戻らずそのまま鹿児島へ帰ってしまったそうです。
多くの政府有力者が鹿児島の西郷の元に集ってしまったこの事態は、大久保利通ら中央政府に残った者にとっては大変な脅威でした。実際に西郷は武力で大久保政権の打倒を目論んでいたのですが、事態は西郷が想像する以上にエスカレートしていき、中央政府軍と西郷率いる薩摩士族軍は九州南部で衝突しました。これが有名な西南戦争です。薩摩軍は奮闘したものの、田原坂を始め各地の激戦で敗れ、最後に篭った城山で、西郷は切腹して果てたのでした。

西郷は「人に慕われた」ことにより活躍し、また死んでいったのですが、ではなぜ彼はこうまで人に慕われたのでしょうか。

<後編>に続く


参考文献
北泰利『西郷隆盛 命もいらず 名もいらず』(ワック株式会社、2013年)
内村鑑三『代表的日本人』(鈴木範久訳 岩波文庫電子書籍版)
                                                       

tamam010yuhei
1984年福岡県生まれ。 東京でサラリーマンをしながら、世界史の面白いネタを集めたブログ「歴ログ -世界史専門ブログ-」を運用。 神話の時代から現代まで、「面白い!」と思ったものは何でも収集。 最近注目している国はインドネシア。
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