工藤瑞穂/『soar』編集長 個人のツラさを組織の強さに変える、「弱さの共有」という働き方【後編】

逆境ヒーロー!

2020/01/22
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成功の裏には、逆境が隠されている。そんな逆境をはねのけ活躍する“インディペンデントな人たち”の成功の秘訣に迫る、『逆境ヒーロー!』。前編に引き続き、社会的マイノリティの人たちにスポットを当てたウェブメディア『soar』の発起人であり、編集長を務める工藤瑞穂さんが登場。前編では工藤さん自身の孤独、そして孤独からの脱却が明らかになりましたが、後編ではsoarという組織の働き方にフォーカス。その働き方を支えるマインドセットをヒモ解くと、職場というフィールドだけに限らない、健やかに生きるための秘訣が見えてきます!

工藤瑞穂(くどう・みずほ)
1984年、青森県出身。日本赤十字社の宮城県・仙台支部に勤務中、東日本大震災を経験。赤十字社への勤務を続けながら、復興支援のためのチャリティイベントを数多く手掛ける。2015年に日本赤十字社を退職し、同年12月より社会的マイノリティの人々にスポットを当てたウェブメディア『soar』を開設。2017年には法人化し、イベント開催やリサーチプロジェクトをはじめ、“全ての人が自分の可能性を活かして生きる未来”を創造するためのアプローチを行う。

身内の病と「べてるの家」との出合い

――前編では工藤さんご自身のお話を聞かせていただきましたが、後編ではsoarについて聞かせてください。soarでは社会的マイノリティの人たちにスポットを当てていますが、その理由はどこにあるのでしょう?

工藤瑞穂(以下、工藤):きっかけは、私自身の経験にあります。soarを立ち上げる前ですね、私の身内が統合失調症になったんです。統合失調症は精神疾患の一つで、幻覚が見えたり、幻聴が聞こえたり、気力が低下してしまうなどの症状があるのが特徴です。私の身内は、ずっと入院をしています。「どうして私には、何もできなかったんだろう」と、後悔の念がこみ上げました。そこからです。以前から、弱い立場にある人を支援する取り組みに関心がありましたが、本格的にさまざまな活動を探し始めました。そこで精神疾患を抱える人たちが暮らす、北海道浦河町の「べてるの家」に出合ったんです。

代表の向谷地生良さんから聞いた「ここにいる人たちの苦労を奪わない」という言葉に衝撃を受けました。べてるの家の取り組みで特に有名なのが、「幻覚妄想大会」。べてるの家では幻覚や幻聴から起こるトラブルをきっかけに、地域で新たな協力関係が築かれることがあります。幻覚や幻聴は恥ずべきことじゃない。むしろ可能性のあることとして、病気のある人たちが自分の幻覚や幻聴について発表するんです。人の苦労を奪わず、その苦労を前向きに変える取り組みに、価値観が揺さぶられました。それなのに精神疾患の当事者や支援者の方でさえ、べてるの家を知らない人が大勢います。こうした素晴らしい団体、活動の存在を広めたいという想いがsoarの原点です。

互いに弱さを共有するという働き方

――そうして立ち上げに至ったsoarをどのように運営され、スタッフの方たちは、どのような働き方をしているのでしょうか?

工藤:soarはもともと、私の想いに賛同してくれた仲間と一緒に立ち上げたメディアです。スタートした当時は収益ゼロの状態のため、仲間の一人ひとりが仕事以外のできる範囲で自分の得意分野を持ち寄って、協力し合うという形でした。ライティングにせよデザインにせよ、一人ひとりがプロフェッショナル。例えるなら、フリーランスの人たちが集うようなイメージですね。働く場所も働く時間も決めることなく、それぞれに仕事を進めていました。

メディアとしてのsoarが軌道に乗り、活動の幅を広げるために法人化したのが2017年。このタイミングで初めて、いわゆる採用活動を始めたんです。インターンシップの大学生、前職を辞めて参加してくれた子など、私たちの想いに賛同してくれる仲間が増えました。でも、働くなかで、心身の調子を崩してしまう人も多かったんです。

――その理由は、何だったのでしょう?

工藤:採用活動を始めた当初も今も、soarで働きたいと思ってくれる子たちは、本当に心が優しい人ばかりなんです。人の気持ちに敏感で、繊細な人も多い。それゆえになかなか心身の調子が安定しない人もいれば、何らかの生きづらさがあったり、病気を経験したりしている子もいます。そもそもsoarを志望してくれた理由の根っこにあるのが共感なんです。soarの記事を読み、「私も同じ経験をしてきた。だから、こうした人たちを助けたい」という想い。

この優しいスタッフたちが心身を大事にしながら無理なく働くには、どうすればいいんだろう。頭に思い浮かんだのは、やっぱりべてるの家でした。べてるの家の理念である、「弱さの情報公開」を参考にしたんです。共に生きる人たちが互いに自分の弱さを公開して、共有する。共有した弱さを何個も何個も折り重ねれば、弱さが強さに転換されたり、弱さのなかに新たな可能性が見つかったりするという考え方で、soarでは「弱さの共有」として取り入れています。とはいえ、弱さを共有することは簡単ではありません。自分の弱さを公開することに不慣れだし、人に弱さを見せるって、やっぱり怖いことですよね。

そこでsoarでは、Slackに「チェックインチャンネル」を作って活用しています。まずは出勤前、自分の状態を把握することから始めるんです。「体調はどう? 心はどう?」って、今日の自分をきちんと見つめてみる。そして「今日の気分は65点!」「気分はいいですが、頭痛がします」「実はパートナーと喧嘩をして、気持ちが落ち込んでいます…」なんていう風に、みんなに自分の状況を共有します。すると、仲間の状態がわかりますよね。

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