2017/08/22 公開

「ブラック企業」から身を守る3つの方法 ― NPO法人POSSE代表・今野晴貴氏に聞く

「働く」を考える。

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ブラック企業は若者を使い潰して利益を上げる

――まずは、改めて「ブラック企業」についてお訊きしていきたいのですが、そもそも「ブラック企業」とはどのような企業を指すのでしょうか。「ブラックでは無い企業」と、どう違うのでしょうか?
 
今野晴貴(以下、今野) 「ブラック企業」は端的に言うと「若者を使い潰して利益を上げようとする企業」のことです。これまでの日本企業では、正社員だったら「終身雇用・年功賃金」という雇用システムでしたよね。頑張ったら頑張っただけ力が身に付いて、雇用システムと能力開発が結び付いていたわけです。ところがブラック企業というのは「使い潰す」ことで利益を出す経営戦略なので、長期雇用を前提としていないんです。

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今野晴貴(こんの・はるき)
1983年生まれ。仙台市出身。NPO法人POSSE代表。ブラック企業対策プロジェクト共同代表。年間2000件余りの労働相談に関わる。『ブラック企業』(文春新書)、『ブラックバイト』(岩波新書)など著書多数。2013年度大佛次郎論壇賞、流行語大賞トップ10を受賞。

――使い潰すことが前提になっている点で、これまでの日本企業と違うわけですね。それでは「ブラック企業」の特徴として、他にはどんなものがありますか?
 
今野 激しく長時間働かせて体を壊したら自分から辞めるように退職に追い込む、ということを「ブラック企業」は繰り返しています。3年間での離職率が5割くらいに達しているのも「ブラック企業」の特徴です。毎年、毎年、たくさんの若者が入って、成長することなく病気になるまで低賃金・長時間で働かされるんです。その結果、病気になって辞めていきます。辞めていった分の人員は、次の年にまた大量採用して補充する。「大量採用・大量離職」を繰り返しているのが「ブラック企業」です。

「正社員幻想」を利用して「ブラック企業」は生まれた

――大量採用・大量離職を繰り返して若者を使い潰す「ブラック企業」が生まれるまでには、どのような社会背景があったのでしょうか?
 
今野 日本はもともと労働規制がゆるいんです。40代くらいまでは、企業で違法なことがあっても滅私奉公していれば報われるんだ、というある種の世代経験があるじゃないですか。高度経済成長期しかり、バブル世代しかり。だから「ブラック企業」が非常に取り締まられにくい。そういった「会社幻想」が未だに根強く残っていると思います。だから、上の世代は「ブラック企業」の存在をいまだに認めないですよ。「お前の努力が足りないんだ」「会社ってのは頑張ってれば報いてくれるものなんだ」というのがすごく強固に社会に根付いてしまっている。そうした社会に根付いた労働文化や「会社幻想」を利用して、ブラック企業は意図的に騙しているわけですよ。「正社員にしておけば、若者は幻想を持って馬車馬のように働くだろう」と、社会経験の浅い若者につけ込んできているわけですね。

――これから社会を支えていく若者が潰れてしまうのは深刻な問題だと思います。ご著書の中でも「ブラック企業」というのは国全体で取り組むべき「社会問題」なのだとお書きになられていましたね。
 
今野 「ブラック企業」が世の中に蔓延することで、彼らは若者を使い潰します。でも、そうなっても「労働災害」に認定されることは稀だし(会社が申請させないので、自分で証拠をそろえて申請しなければならない)、治療費を自分で払っているわけですね。本来、これから日本社会を担わなきゃいけない人たち、税金や社会保障、保険費を払っていく人たちが、むしろ病気になって、国の保険の給付を受けなければならないという状況になるわけです。当然こういうことを見過ごしていたら日本では労働人口がさらに減って医療費も高くなって、破綻していく。つまり、「使いつぶし」を前提にした経営は、「コスト」を国や社会に転嫁している。そうやって日本という国を食いつぶして成長していくのが「ブラック企業」なんです。

2011年、就活生の間で「ブラック企業」の噂が広まった

――「ブラック企業」という呼び方ですが、以前は「暴力団のフロント企業」という意味だったと思います。今使われている意味での「ブラック企業」という言葉は、どうやって広がっていったのでしょうか?
 
今野 2000年代の終わり頃に、最初は「ブラック会社」という言葉が出てきました。IT企業で働いていた人がネットに書き込んだ文章に反響があって、2008年に『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない 』という本になって出版されました。2009年には映画化もされるのですが、その時に爆発的に広がったわけではありません。その少し後、2011年以降に就職活動をしている学生の間で広がりを見せました。就職活動をしている人たちが「ブラック企業」という言葉を使うようになったのは、被害を受けた人の数が覆い隠せないくらい増えてきたからだと思います。先輩だったり親戚の人だったりが「入って1年で辞めたらしい」、「うつ病になるまで働かせられたらしい」と、「ブラック企業」の噂をそこらで聞くようになって、それがネットで広がっていった。

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今野 でも、どこが「ブラック企業」だか分からない。どんなものが「ブラック企業」なのかも分からない。そして上の世代は「そんなこと言って甘えているだけなんだ」「若い人たちの方がおかしくなったんだ」と言っている。そういった状態が続いていたのですが、2012年に私が本を出したことで一気に状況が変わった気がします。

「現場」を知っていたから「ブラック企業」の実態にアプローチできた

――それでは2012年に『ブラック企業』をお書きになろうと思われた経緯を教えていただけますか? 当時の「ブラック企業」をめぐる社会背景は、どのようなものだったのでしょうか?
 
今野 あの本を書いたのは、新聞記者や上の世代が「ブラック企業」の実態を知らなかったことが大きな理由です。日経新聞が「ブラック企業」をはじめて紙面で扱った2011年の記事が象徴的ですが、そこでは「『ブラック企業』なんて実際あるのか無いのか分からないのだから、そんなこと言っているお前らは甘えているんだ。就職活動なめんな」みたいな話になっていました。新聞ではそうやって若者を叩く方へ誘導していたけど、記者や学者の多くも実態を知らないんですね。でも、私は現実を知っていましたから。「これは、あのIT企業のことだな、あの飲食店のことだな」と「ブラック企業」がどんなものかリアリティを持ってイメージできた。だから「本を出して世の中の言論状況を変えないといけない」と強く思いました。

――まるで実態が知られていなかったわけですね。
 
今野 そうです。なぜ学者や記者ではなく、私たちが「ブラック企業」の問題を提起するようになったか。それが一つポイントだと思うんですね。それは私が労働相談を受けていたからです。労働事件というものは、被害がひどい人ほど訴えることも何もできずに、世の中に埋もれてしまう傾向がある。そのことを現場でリアリティを持って知っていました。

――なぜ埋もれてしまうのでしょうか?
 
今野 たとえば、「ブラック企業」には「戦略的パワハラ」を行う企業がたくさんあります。「戦略的パワハラ」とは、意図的に鬱病に追い込んで辞めさせる手口のことです。苛烈に鬱病に追い込むことによって、辞めた後に裁判を起こそうなんて気を完全になくさせるわけです。私はこれを「民事的殺人」と呼んでいますが、そうなると被害者の方は思い出すだけでパニック障害になってしまって、何もできない。この状態に追い込めば事実上、「ブラック企業」の勝ちなんです。この状態に陥った人たちが裁判に訴えたり、メディアに訴えたりすることは皆無に近い。だからこそ労働事件は埋もれてしまいやすい。ですが、私は2006年に立ち上げたNPO法人POSSEで労働相談を受けていたので、「ブラック企業」の実態にアプローチすることができました。

当時、「自己都合退職」は「誤解」されていた

――当時は、どのような相談が多かったのでしょうか?
 
今野 私たちのところへ来たのは、大半が雇用保険の相談でした。裁判を起こさない人たちがウチに来たのは、私たちが「生活支援」も行っていたからです。「鬱病になって働くことも出来なくて、雇用保険ももらえなくて、どうしたらいいですか?」という相談ですね。「戦略的パワハラ」で辞めさせられてしまうと、自分から辞める「自己都合退職」という形式にされてしまいます。そして「自己都合退職」の場合、雇用保険に給付制限がかかってしまいます。

――最初は「ブラック企業で働いて苦しいから助けてくれ」という相談ではなく、まずは雇用保険についての相談だったのですね。
 
今野 そうです。相談を受ける中で「なんで前の仕事を辞めたんですか」と訊いていくと彼らが今で言うブラック企業で働いていたことが分かった。労働相談を受けていたことで「被害を受けた方の実態」も「ブラック企業の実態」も把握することが出来たわけです。

実は、鬱病を患って自分から辞めた人は社会的な統計として「自己都合退職者」としか現れてこないんですよ。それなのに、「若い人の離職率が高い」「離職率のうちの7割が自己都合退職だ」「若者は好き好んで辞めている人が多いんだ」とさんざん言われていたんです。当時はあまりにも実態を無視した言論状況だったのです。

――「自己都合退職」の実態がまったく理解されてなかったことも『ブラック企業』をお書きになられたキッカケだったのですか?
 
今野 そうですね。一般的な研究者からすれば、企業にヒアリングをしても人事部にしか話を聞けないから、実態を知りたくても知れないところもあったんでしょうけれども。だから当事者の支援を行ってきて現実を知っている私としては、あまりにも実態と乖離していることに対して何か言わなければならないと強く思ったのです。

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