小島慶子/タレント・エッセイスト ハラスメントを止めるために、“本当の敵は誰なのか”を考える【後編】

2019/05/23
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華々しい成功の裏には、失敗や挫折がある。その失敗エピソードから成功の秘訣をヒモ解く『失敗ヒーロー!』。今回はタレント、エッセイスト、ラジオパーソナリティと幅広くご活躍されている小島慶子さんが登場。小島さんの女子アナ論をお伺いした前編に続き、後編では職場環境の改善やハラスメントとの向き合い方について伺います。

ジェンダーに関係なく、困ってる人たち同士で協働する

――現在ではハラスメントなど労働環境についての著書も書かれていらっしゃいます。前編でお話しいただいた「女子アナ」コンテンツとの葛藤がきっかけとなったのでしょうか?

小島慶子(こじま・けいこ)
1972年生まれ。学習院大学法学部を卒業後、TBSにアナウンサー30期生として入社。入社4年目でラジオの討論番組『BATTLE TALK RADIO アクセス』初代ナビゲーターに就任し、翌年ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞を受賞。30歳で出産後、主に報道番組やラジオで活躍。2010年に株式会社TBSを退社し、夫が退職したのを機に、2014年オーストラリアのパースに移住。現在は日本とオーストラリアを行き来しながら、『AERA』や『VERY』ほかでエッセイを連載。2019年2月にハラスメント問題についての対談集『さよなら!ハラスメント』を出版。

小島慶子(以下、小島):そうですね。“女子アナ”というコンテンツが好ましいとされる裏には、「主体的に考えて自分からアクションを起こす女性は目障りだ」という価値観が潜んでます。アナウンサー以外にも、多くの女性が職場や親戚関係からそのような暗黙のメッセージを受けとっているでしょう。端的に言えば、「女はニコニコしていればいい、大事な場面では引っ込んでいろ」というメッセージです。つまり、女子アナというコンテンツが30年間も生きながらえてきたのは、女性に対する社会の眼差しがそのように性差別的であり、それを女性自身も内面化してしまっていることが背景にあるのです。

――小島さんはTBS時代に労働組合で環境改善もされていました。具体的にはどんな風に活動をしていたのでしょうか?

小島:まずは制度作りですね。福利厚生制度のムダの見直しや、育児介護休業制度の改善を担当していました。最初は会社側と話をしても理解してもらえず、「女性社員が出産後、復帰できるように制度を充実させてください」と伝えても、「女性の人数が少ないんだからその人たちのためだけにはできないよ」と言われてしまいました。

そこで、女性だけの話だと聞いてもらえないなら、男性も関わる「働き方の問題」として全体を巻き込んでいこうと考えました。社内アンケートをとると、近所の親切なおばあさんに子供を預けて夜の呼び出しに対応している報道カメラマンなど、男性の中にも切羽詰まった人たちがいたんです。そういう人たちと一緒に、より柔軟な働き方ができるよう訴えたら、会社は話を聞いてくれました。「どうして聞いてくれないの」と敵対するのではなくて、「どうしたら話を聞いてもらえるか」を考えるのが大事ですね。その工夫が一番大変でした。

結局9年間も組合の執行委員(そのうち7年間は副委員長)を務めましたね。労働組合は会社とは別の法人格を持った組織なので、いち社員でも経営側と対等な立場で話せます。ただ敵対するのではなく会社と交渉し一緒になって制度の改善を進めることで、働く環境は自分でカスタマイズできるんだと気がつきました。

――働く環境は自分たちで変えられることを知らない会社員は、未だに多いかもしれないですね。

小島:実際に少しでも制度が変わると、「助かった」と言ってくれる人たちがいました。組合活動はアナウンサーの仕事には何の関係もないし、社内の印象としても特にプラスにもならないことでしたが、とてもやりがいを感じましたね。

男性が働くのだって、よく考えたら“当たり前”じゃない

――苦労している男性にもしっかりと目を向けたことが環境改善の大きな一歩だったのですね。「男性が働くのは当たり前じゃない」と、社会学者の田中俊之さんとの共著でお話しされていました。

小島:そこは大事な視点です。ぜひ男性にこう聞いてみてください。「生まれてからこれまで『学校卒業したら、働いてもいいよ』って言われたことある?」って。「あるよ」と答える人は、よほどの富豪じゃない限りいないですよね。少なくとも女の人は「仕事する? もしくは主婦になる?」と悩むことができた。男性はどんなに夢を見ようと思っても、基本的に道は一本しかないわけです。

ですから、男性も生きづらさがあるんです。もちろん長い歴史のなかで女性が差別されてきたことは、是正されるべきです。でも「男は強者だったから思いやる必要はない」というのもフェアじゃない。女のことをわかってほしいなら、男のことも理解する必要があります。男性もだいぶ無茶振りをされてきました。女性にいろんな生き方があるように、彼らにもいろんな生き方があっていいことは、女の人がこれまで意識してこなかったことですよね。

――女性が被害者、男性が加害者と二項対立では語れないのかもしれません。

小島:同じ社会の構造のもとで、自分とは違うタイプのしんどさを男性も感じているわけです。働かない男には価値がない、子育てしない女には価値がない、と。女性は「仕事するなら家事も手を抜くなよ」と無茶振りをされているけど、男性も「男なら仕事命でちゃんと稼げよ」とか「妻より稼ぎが少ないなんてカッコ悪い」と言われている。男性と女性は被害者と加害者ではなくて、“男らしさ・女らしさ”を押し付ける構造の被害者同士なんです。

――小島さんの『さよなら!ハラスメント』を読んで、自分自身の加害者性に気づいた方は多いかと思います。どのようにすれば、この加害者性を直していけるとお考えですか?

小島:誰もが自分の中に、ハラスメントの被害者、加害者、見て見ぬふりする傍観者という三者が存在しています。一切ハラスメントしていないつもりでも、相手の属性を考えない物言いをしていたかもしれない。職場のコミュニケーションを円滑にするつもりで、誰かに“いじり”という名のセクハラをしていたかもしれない。ハラスメントは受け取る側が嫌がらせと感じるかどうかですから、「加害者ではない」と誰も言い切れないんです。

大事なのは、この三者のどれもが自分のなかにあると自覚すること。自分は被害者オンリーだと思い込んでしまうと、相手を責めるだけになります。敵対するだけでは人は変わらないんです。でも、わが身のうちに三者いることを理解すると、例えば何かを言った時に相手の反応を見て「今の言い方、もしかして不快だったかな?」と対話ができるようになります。他人のやり取りを笑って見ていた場面でも「悪気がなくても、それはセクハラになっちゃうよ」と忠告することができる。敵か味方かではなく、これまで当たり前とされてきたコミュニケーションスタイルを変える取り組みだと考えれば、反省を込めて「もうやめよう」と言えるし、ハラスメントに無自覚な人を責めるだけでなく対話を通じて気づいてもらうこともできるんです。

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