「日本は“いざ”という時に100%を出せない労働環境にある」幸野健一(アーセナルサッカースクール市川)

思い出す言葉

2017/05/16
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元日本代表GKコーチを登用。パッションで人を動かす人材マネジメント

――今年から元サッカー日本代表GKコーチだったリカルド・ロペス氏がテクニカル・ディレクターとして加わりました。「マンチェスター・ユナイテッドやスペイン代表で活躍し、昨年夏まで日本代表コーチだったリカルド・ロペスが、アーセナルスクールに!」というのはサッカー関係者の間で話題になりました。 

幸野 彼も、完璧にパッションです(笑)。リカルドの経歴は素晴らしいもので、世界のトップクラブやJリーグのクラブがオファーを出してもおかしくありません。実際、海外のクラブからオファーがあったそうですが、リカルドは金額も見ずにオファーを受けてくれました。

――それはすごい話ですよね。なぜ彼は市川アーセナルに? 

幸野 僕たちが求めるものと、彼が求めるものが一致したんです。エージェントを通じて、紹介を受けて1週間リカルドに来てもらい、スクールの指導をしてもらいました。その1週間の熱量が、半端じゃなかった。試合前には熱く選手を鼓舞したりと、周囲にパッションがガンガンに伝わっていきました。

リカルドも、(PFIによって何もない場所にスクールを作ったことで)僕たちが「本気だ」ということをわかってくれたと思います。2002年ワールドカップでスペイン代表としてプレーしたリカルドが、条件では一番ではなかったはずの市川アーセナルスクールを選んでくれたのは、パッション以外にないと思います。

もちろん、リカルドだけではありません。うちに加わってくれる人材は、みんなサッカーに、目の前の仕事に情熱を注いでくれています。4年前、初めて来たときには背丈以上の雑草が生い茂るただの空き地だったこの場所が、多くの人が笑顔になれる場所に生まれ変わりました。自前のグラウンドを作るスクールを立ち上げることも、採用した手法も、これまでにない新しいチャレンジです。だからこそ、誰かの目に留まるような仕事になったと思います。

――幸野さんのパッションに惹かれた人材が、自然に集まっているということですね。 

幸野 パッションは連鎖しますから。このスクールにしても、僕にとっては日本サッカーを変える、強くしていくための「壮大な実験」なんです。

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日本は、肝心な時に70%しか出せない環境にある

幸野 正直なことを言えば、サッカーというスポーツは日本人には向かないスポーツだと思っているんです。イギリスで生まれ、ルールも彼らのメンタリティに合わせて作られたスポーツ。日本人とは違う価値観、発想で作られたものです。自分で判断してプレーするのが当たり前のスポーツなのに、日本人はついつい和を尊びゴール前でパスを出してしまう。タスクを忠実に実行する野球が先に日本に根付き、即興で自分を表現するサッカーが根付くのが遅れたのは納得の行く話ですよね。

そのことを、30年前、イギリスにサッカー留学したときに痛感しました。ある街クラブで小学校5年生のチームのアシスタントコーチをしているとき、トレーニングをボイコットされたことがあるんです。

――ボイコットですか? どんな理由で? 

幸野 子どもたちが僕の練習に納得しなかったんです。「なんでこんなことやるんだ?意味がないから帰るぞ」って。小学校5年生でも、コ-チの示した練習を自分で納得しない限りはやらない。日本では考えられないでしょう。それが、そのまま「世界と日本の差」なんです。クラブのスタッフには、「次にボイコットされたらクビだ」と宣告されました。必死でメニューを考え、子どもたちを説得しましたよ。

――自分で考えて行動するということが、子どもの頃から体に染みついているんですね。 

幸野 日本では大人が整えて、子どもは大人の言うことに従う文化がありますが、これは子どもが育つ上ではマイナスの側面もあると思っています。ビジネスに置き換えても同じかもしれません。日本では「自主練」とか「居残り練習」って良いこととされていますよね。でも、欧州では「オフの時間は、オンの時に100パーセントを出し切るリカバリー期間」という常識があるんです。

オフの時間にまで練習をすると、本人は人一倍努力しているつもりが実は無駄な体力を使っているだけになっている。肝心なオンのときに70パーセントしか力を出せないよう、自分を追い込んでいるんです。長時間労働に際しても、同じことが言えます。人間は8時間以上フルで働けません。それなら8時間でももっと短くても、100パーセントでやった方がいい。日本の長時間労働が生産性の向上に貢献していないのは、そんな理由があるのではないでしょうか。

――アーセナル市川ではオンオフの切り替えが重視されている? 

幸野 2時間以上ダメな練習をやってもうまくなりません。疲労するし、ケガもしやすくなる。いいことは何一つありません。それだったら練習時間を短くして、勉強したりデートしたりした方がサッカーに生きるんです。

日本では、サッカーをはじめとするスポーツは教育と結びついて体育になったりしています。でも、本来スポーツとは遊びのこと。なぜやるのかといったら、「楽しいから」やるわけです。僕がサッカーをずっと続けている、こういう事業に携わっているのも、サッカーが好きだからというのが一番大きいんです。

オリンピックに関する議論で「スポーツの社会的価値」が話題になっていますが、僕はスポーツをすることは生理学的に見ても体にいいことなんだからまずはやるべきだと思っています。楽しいこと、好きなことをやるべきで、その環境を作ることで社会に貢献できると思っています。

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30代40代のビジネスパーソンへ。「その人の口からその言葉を聞け」

――最後に、30代40代のビジネスパーソンに向けてメッセージをいただけないでしょうか。 

幸野 「もう一つ挙げるとするならば」と用意してきた言葉があります。「その人の口から、言葉を聞け」です。これは、高校サッカーの名門・滝川第二高で長くサッカー部の監督を務められ、現在はチャイニーズタイペイの監督をされている黒田和生先生の言葉です。現日本代表の岡崎慎司選手、金崎夢生選手を育てた監督です。

8年前、黒田先生から突然メールをいただきました。僕が書いた記事について「共感したのであなたにいつか会いたいと思っている」という内容でした。重鎮からのご連絡に恐縮していたのですが、少し経って本当に黒田先生に会う機会があったんです。そのときに言われたのが、「私はその人の口からその言葉を聞くようにしているんです」という言葉です。

インターネットの普及や技術の発達で、情報を取るのに不自由しない時代になりました。黒田先生はこうした情報を活用しながらも、本当に「これは」と思う言葉に出会ったときには、その人に会って直接話を聞くようにしているとおっしゃいました。

その話を聞いて、僕は「自分もまだまだだな」と思いました。何かをしたいと思ったらまずは一歩踏み出す。誰かに会いにいって、生の言葉を聞く。人のパッションは直接会ってはじめてその熱量が伝わるものなのかもしれません。

――本日は、非常に勉強になるお話をありがとうございました。 

<了>

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