加藤一二三 ハプニングこそ人生!だから仕事は断らない【後編】

失敗ヒーロー!

2019/11/20
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華々しい成功の裏には、失敗や挫折がある。その失敗エピソードから成功の秘訣をヒモ解く『失敗ヒーロー!』。前編に引き続き、“ひふみん”こと加藤一二三さんが登場。2017年に現役を引退され、プロ棋士としての勤続年数は歴代トップとなる62年10カ月。後編では長きにわたる現役生活を支えた原動力、さらにはタレントに歌手までこなす“多彩すぎる仕事”の秘密にも迫ります!

長い現役生活を支えた、妻の“職人芸”

――前編でお話しいただいた挫折を乗り越え、プロ棋士として活動された年数は62年10カ月。これほど長く第一線で活躍し続けられた原動力は、何だったのでしょう?

加藤一二三(かとう・ひふみ)
1940年1月1日生まれ。当時の最年少記録である14歳7カ月でプロ棋士デビューし、1958年には史上最速でプロ棋士最高峰のA級八段に昇段。1982年には名人位に就く。タイトル獲得は通算8期、棋戦優勝23回。2017年6月20日、62年10カ月にわたる現役生活に終止符を打ち、以降はバラエティ番組でも活躍。“ひふみん”の愛称で親しまれ、歌手デビューやドラマデビューも果たす。敬虔なキリスト教徒としても知られ、将棋のみならずキリスト教にまつわる著書も多数。

加藤一二三(以下、加藤):これは間違いなく、妻のおかげですね。妻がある時、「あなたは棋士なんだから、どんな時でも良い将棋を指しなさい」と言ったんです。将棋は勝負の世界ですから、プロともなれば浮き沈みもありますし、浮き沈みによって収入も変わります。けれども妻は「どんな時でも良い将棋を指しなさい」と言って、僕が負けて帰った時にも、顔色一つ変えたことがありません。キリスト教の洗礼によってスランプを抜け出せたことも事実ですが、妻に支えられたことも事実です。

現ローマ教皇である聖フランシスコは、「結婚生活とは職人芸」だと言っています。これは言い得て妙ですね。大好きな言葉です。洗濯をし、掃除をし、買い物に行き、食事を作る。家庭を支えるという仕事は、ある意味、繰り返しです。毎日の繰り返しのなかでも常に素晴らしい仕事をする妻は、まさに職人です。大工さんやコックさんと同じように、職人の成せる技ですよ。

――なるほど、確かにそうですね。専業主婦や専業主夫であることに引け目を感じる人もいると聞きますが、とても励みになる言葉です。

加藤:そうです。長くプロを続けられたのは職人である妻のおかげですし、絶えず将棋を指していると、自らも感動するほどの対局を経験することがあります。僕にも感動的な対局が二度、三度とありましてね、これはもう芸術です。名局と呼ばれる一戦の棋譜は、モーツァルトやバッハの名曲のごとく感動を呼び起こします。こうした名局を体験すると、棋士としての使命感に燃えますね。つまりは「この感動を後世に伝えるには、自分自身が指し続けなければならない」と、奮起するわけです。

キャリアの最後に出会った新生・藤井聡太七段

――「後世に将棋の感動を伝える」。この言葉からは世間の大注目を浴びた、藤井聡太さんとの一戦を思い浮かべずにはいられません。

加藤:藤井七段のデビュー戦ですね、僕と戦いました。藤井さんには大いに期待していますけれど、将棋界全体のことを思えば、何よりデビューのタイミングが良かったですね。世間の皆さんが僕と藤井さんの一戦に注目してくださったのは、彼との年齢差が大きいからでしょう。僕と藤井さんの年の差は62歳6カ月です。しかも僕が負けたことで、さらに盛り上がりを見せました。藤井少年の登場が僕の引退後だったら、ちょっとつまらなかったですよ。それと、将棋教室も大わらわだそうです。「将棋を習いたい」という子どもが増えて、はっきり言って、教室が足りない状況です。教室をやっているプロ棋士の先生は大変な思いをしていますから、謝らなきゃいけないと思っているの(笑)。

――嬉しい悲鳴ですね(笑)。そして藤井さんとの対局から約半年後となる2017年6月20日に、現役を引退。77歳の時でしたが、引退後の生活に芸能活動を選ばれたのは、なぜですか?

加藤:僕が芸能活動をするというのは、周りの人には意外だったと思います。僕自身も、こんな未来は想像していませんでした。それなのに、どうして芸能活動をしているのか。理由は神父様からあずかった、ゆるしの秘跡です。ゆるしの秘跡というのは、昔の言葉でいう懺悔ですね。自分の弱さや欠点を告白し、神様の代理人である神父様から、励ましの言葉をいただきます。

確か引退の前年でしたね。自分の弱さを伝えると、神父様から「あなたは仕事が嫌いですか?」と問われました。「好きです」と答えると、神父様は「では、仕事しなさい」とおっしゃったんです。すでに引退の時期が迫っていた僕に対し、「仕事をしなさい」とは不思議ですよね。矛盾があります。しかし神父様は神様の代理人ですから、矛盾があるはずありません。そこで僕は、「これからの人生にも仕事がありますよ」というメッセージだと解釈しました。すると、どうでしょう。現役当時と比べて、今のほうが忙しいくらいです。

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