加藤一二三 人生も将棋も決断の連続【前編】

失敗ヒーロー!

2019/11/19
Pocket

10の220乗から直感する、確かな一手

――対局中のルーティンはテレビでも話題になりましたが、これは自信の表れであり、勝利の秘訣でもあったわけですね。そして加藤さんの座右の銘である「直感精読」という言葉からも、確固たる自信が感じられます。

加藤:それは僕の造語ですけれど、「将棋盤を見て、真っ先に浮かんだ一手を信じなさい。その一手を熟考し、確かな裏付けをもって指しなさい」という意味です。将棋にはね、一手における選択肢が10の220乗もあるんですって。ものすごく膨大ですよねぇ。しかしプロ棋士ともなると、次に指すべき一手が直感的に浮かびます。これはひらめきを司る、右脳の仕事です。反対に精読は、論理的な思考を司る左脳の仕事です。プロ棋士には、右脳の鋭さも左脳の鋭さも、どちらも必要なんですね。

この「直感精読」という言葉は、キリスト教の教えにも通じます。僕は洗礼によって、より深く、自分の直感を信じられるようになりましたが、論理的な精読も、キリスト教の教えの一つです。というのもキリスト教では奇跡を信じる一方、理性を非常に重んじます。「理性的に考え、正しい判断をもって進むことが悪事を避ける」というのが、キリスト教の教え。宗教にはさまざまな解釈の仕方がありますけれど、僕はこのように解釈しています。そこで僕が思うのが、将棋と人生はとても似ていて、この二つが似ているからこそ、人生を導く教えが、棋士としての僕を救ったわけです。

――確かに将棋と同様、人生も決断と前進の連続ですが、自分の決断に自信を持てない人も多くいます。どうしたら加藤さんのように、自信ある決断ができるのでしょう?

加藤:僕の体験からすると、毎朝のお祈りです。キリスト教では、朝晩のお祈りが重んじられていますが、実は僕自身、朝のお祈りは苦手だったんですね。どうにも頭がボーッとして、きちんとできない。それが3年くらい前のことですね。しっかり10分かけて、お祈りをしました。すると、すっきり目が覚めました。「目を覚ます」とは、キリスト教では「理性的に考える」ことの例えですから、その日一日、理性的な判断ができます。

僕の場合は「落ち着いて、穏やかに、自分の成すべきことを成せますように」と、お祈りをします。これはキリスト教徒の方でなくとも、試してみたら良いと思いますよ。「今日はこういう日でありますように」と思いを巡らすと、自分のスケジュールに対して、どのような事態が起こりうるのか、頭が整理されます。すると起こりうる事態に向けて、心構えができます。「平々凡々と何も起こらない日は、一日たりともない」というのがキリスト教の教えですが、事前の心構えがあれば、自ずと自分の決断に自信が持てるはずです。

後編では・・・

30歳のクリスマスに受けたキリスト教の洗礼により、人生初にして最大の挫折を乗り越えられた加藤さん。このスランプ脱却の後も30年以上の活躍を続け、プロ棋士としての勤続年数は62年10カ月。後編では、その長いキャリアの秘訣にフォーカスしながら、多彩な活躍ぶりを見せる“ひふみん”こその仕事術にも迫ります!

マネたまご マネたまをフォローすれば最新記事をお届けします!
運営会社 | Copyright © kaonavi, inc. All Rights Reserved.