【前編】「絵もお笑いも、『またここから!?』の繰り返しだった」・片桐 仁

失敗ヒーロー!

2017/04/25
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“お笑い”で存在価値を得られたはずが……

――その彫刻の授業が“芸術家・片桐 仁”としての代名詞である、粘土彫刻につながっていきますね。しかし教職のゼミまで受けてお笑い芸人というのは、やはり異色です。 

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片桐 相方に誘われたのをきっかけにね。しかし学生という立場でお笑いライブをやると、これがとにかくウケるんですよ。大人数の前に立って、漫才をやって、大ウケする。やっと存在価値が得られた気がしたんです。

――片桐さんのお言葉を借りると、まさに「いいね」がもらえた瞬間ですね。 

片桐 そうなんです。美大という場所で「いいね」をもらうには、漫才をやってウケること以外、何もなかったんですね。どうにか天才だとか、変わった奴だと思われたくて、奇抜な格好や変な髪型にしてみたりしました(笑)。だけど、お笑いで初めて手応えを感じたんですよね。しかもお笑いだと、美大じゃない空気が生まれるんです。単なる価値じゃなく、希少価値というか。

――「美大生がお笑いをやる」という異質さに、希少価値があったんですね。 

片桐 芸人としてプロの道に進み始めた瞬間、もろくも崩れ去りましたけどね(苦笑)。高校卒業後、すぐに事務所に所属して、どんどんライブに出ているような芸人がたくさんいますから。その点、僕には裸一貫、お笑い芸人として生きていくハングリー精神なんて皆無でしたし、「そういう熱さが苦手だから、美大に進んだんだよな」と。

同時に「お笑いも予備校も美大も、けっきょくは何も変わらないんだ」ということにも気づきました。どのフィールドでも自分の価値で勝ち進むため、その価値を売り出す技術を磨かなくちゃいけない。もうね、「またここからかよ〜」って感じですよ(笑)。

「コンプレックスだった顔」が、新たな世界へ導いた

――アートとは別世界に進んでもなお、同じ壁にぶち当たってしまったと。 

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片桐 絵が上手い人たちから面白い人たちへ、コンプレックスの対象が変わっただけというね。フリートークはできないし、ひな壇に座ったまま1時間、ほとんどしゃべらないで終わったこともありましたから。つまらないことがバレたくないから、しゃべらないことで自分を守っていたんですね。美大時代、抽象画ばかり描いていたのと一緒です(笑)。

――そんな葛藤があったとは意外です。片桐さん個人にしても、ラーメンズにしても、エキセントリックというか、唯一無二のイメージがありますから。 

片桐 見た目のインパクトは大きいですよね(笑)。周りの芸人さんにも「片桐くんは、ずるい顔だよねぇ」なんて言われて、「そうか! 僕、顔はいいのか」って。それまでは僕、顔もコンプレックスだったので、顔がポジティブな意味で武器になるとは驚きでしたから。

「恥ずかしいなぁ、嫌な顔だなぁ」と思っていたのに、演劇の仕事が舞い込み始めたのも、この顔のおかげですよ。役者として声をかけていただく機会が多くなったのが、2004年くらいかな。ちょうどそのころに結婚して、子どもができて、大きな転換期になったと思います。自分じゃよく分からないけど、周りから「変わったね」なんて言われたりして。

「演劇も親になることも、めちゃくちゃ衝撃的だった」

――お仕事もプライベートの環境も変化する中、片桐さん自身にどんな変化が? 

片桐 演劇をやることも、親になることも、僕自身にはめちゃくちゃ衝撃的だったんです。とくに演劇なんて、長くてつまらないと思っていましたし。だけど実際にやってみると、描いていたイメージとはまったく違う。演劇って、舞台上ではものすごく密なやり取りが交わされているんですね。

それなのに役者の先輩たちに「どうしたら芝居が上手くなりますか?」と尋ねても、返ってくるのは「知らないよ、人によるんだから」って言葉ばかり。共演者とのぶつかり合いとか、セリフの言葉尻ににじむニュアンスとか、最終的には舞台上で感じて放つものだから、簡単に教えられるような技術じゃない。そこで初めて、予備校や美大とは違う感覚に出合えたんですね。技術を学ぶという意味では一緒だけど、プロセスが決定的に違いますから。

――学校とはいえ、絵を描くことは個人作業。一方、演劇は共同作業ですよね。正反対の世界で、何かをつかまれたんですね。 

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片桐 演劇の世界を知ってから、それこそ共同作業の醍醐味が分かったというか、一人では何もできないことに、ようやく気づいたんだと思います。同じことが家族という存在にも言えるし、演劇なんて共演者はもちろん、お客さんには見えないところで働く方々の力で舞台が出来上がりますし、劇場に来てくださるお客さんがいなければ、どうにもならない世界です。

本番の舞台上でも、誰かがミスをすると「どうにかしなきゃ」って、変なスイッチが入ったりしてね(笑)。そのアドレナリンが空回りして、もっとグチャグチャになることもありますけど、そこも含めて演劇の面白さというか。この、どう完成するか分からないライブ感って、技術を知らず、楽しいから絵を描いていた若いころの感覚と、似ている気がするんです。


後編では・・・

失敗ヒーロー!」第4弾後編は、共同作業の醍醐味を知った演劇におけるチームマネジメントについてのお話や、片桐仁氏が得意とされる「粘土彫刻」にフォーカスし、失敗に対する考え方を伺います!


【前編】「絵もお笑いも、『またここから!?』の繰り返しだった」・片桐 仁
【後編】「君がいいんだよ、君じゃなきゃダメなんだよ」・片桐 仁


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