神田松之丞 いつか歌舞伎座で講談を。野暮ったさに潜んだ言葉の力【後編】

失敗ヒーロー!

2019/10/17
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講談を嫌いにさせないための絶妙な距離感

――来る2020年2月に真打昇進、「神田伯山」襲名が決まりました。真打になると、お弟子さんを取れるようになりますね。松之丞さんは、どんな師匠を目指しますか?

松之丞:一言にまとめれば、松鯉のような師匠ですね。うちの師匠は、弟子との距離感も絶妙なんですよ。演芸って特殊な世界だから、師匠の家の掃除なんかも前座仕事のうち。でも、松鯉はさせません。いわゆるプライベートな場所まで食い込むと、師匠のことを嫌いになる危険があるでしょう。すると自ずから、講談まで嫌いになってしまう。特に一番弟子に関しては、思い入れが強いあまり、面倒を見過ぎちゃうらしいんですよね。だからこそ、付かず離れずの距離感も、師匠を見習いたいなと。

そして、背中で教えられる師匠になりたいですね。うちの師匠は今でも、高座でいろんなネタを披露するんです。ふつうは年を取ると、失敗のない得意ネタでまわすものです。77歳になってなお、挑戦を続ける姿には身が引き締まります。僕は師匠に、背中で教えられているわけです。

――では、「こんな若者に来てほしい」という、理想の弟子像は?

松之丞:いやいや、これは僕が選べるものではないですから。ただ、演芸の世界で生きていくには、ズボラなほうがいいですね。もうね、前座のうちは本当に怒られっぱなしだし、理不尽なことも多いんですよ。師匠や兄さんたちの言うことを100パーセント真に受けていたら、精神を病んでしまう。上下関係の厳しい世界では「ああ、今、怒ってるなあ」とやり過ごせるくらいのズボラさが、自分を守る術になりますから。

言葉の力を信じて、いつか歌舞伎座で講談を

――ズボラさが自分を守る。これは若者の助けになるお言葉ですね。では最後に、真打昇進を間近に控える、講談師・神田松之丞としての今後の展望を聞かせてください。

松之丞:そうですね。これからも変わらず淡々とネタを覚えて披露して、芸を磨いていきたいと思いますが、真打ともなれば僕の影響力も増すはずです。とすれば、講談の面白さを広める活動に関しても、より一層、尽力しなければと。正直、僕が入門した当時の講談人気は、惨憺たるものでした。しかし今では、老若男女が会場に足を運んでくださる。うちの師匠も人間国宝の認定が決まり、講談界には明るいニュースがいっぱいあります。

入門から12年が経とうとしていますが、今の明るい講談界は、僕がずっと思い描き、予言していた景色です。そこで思うのが、「10年で意外と変わるぞ」ということ。お客様が増えたこともそうですが、V6の岡田准一さんがCMで講談師を演じているのを見た時には、「講談もここまで来たか」と驚きましたよ。しかもあのCMは、うちの師匠が監修しているそうです。

――「10年で意外と変わる」。松之丞さんの歩みを象徴するようなお言葉ですね。

松之丞:講談界がここまで明るくなったのには、それこそ、言葉の力があると思っています。「講談を聴きに来てください」「講談界を盛り上げましょうよ」と、言葉にするのは野暮ったい。しかし言葉にしたから多くの人に伝わり、「そんなに言うなら一緒に盛り上げていこうか」と、講談復活の気運を作れたはずです。僕はかねてから「師匠に縁ある歌舞伎座で講談をしたい」と言い続けてきましたが、言葉にしていれば、いつか叶う可能性を秘めている。講談界の発展はもちろん、歌舞伎座で講談という野望も、僕は言葉にし続けますよ。

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