神田松之丞 いつか歌舞伎座で講談を。野暮ったさに潜んだ言葉の力【後編】

失敗ヒーロー!

2019/10/17
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華々しい成功の裏には、失敗や挫折がある。その失敗エピソードから成功の秘訣をヒモ解く『失敗ヒーロー!』。前編に引き続き、講談師・神田松之丞さんが登場。師弟関係が厳しいイメージのある古典芸能の世界に身を置きながら、松之丞さんは、師匠への愛を一つのためらいなく語ります。その師弟関係をヒモ解くと共に松之丞さんが目指す師匠像を伺うと、上司と部下にもつながる理想の関係性が見えてきました!

入門とは就職。事前リサーチで確信した師匠の指導力

――前編で「弟子入りするなら、神田松鯉だと決めていた」というお話がありましたが、その理由は何だったのでしょう?

神田松之丞(かんだ・まつのじょう)
1983年6月4日東京都生まれ。講談師。日本講談協会、落語芸術協会所属。2007年に3代目・神田松鯉に入門し、2012年に二ツ目昇進。持ちネタの数は入門から10年で130を超え、独演会のチケットは即日完売。『神田松之丞 問わず語りの松之丞』(TBSラジオ)にレギュラー出演するほか、講談界を盛り上げるために幅広く活動。2020年2月に真打昇進、6代目・神田伯山の襲名が決定。

神田松之丞(以下、松之丞):第一に、芸が面白い。講談を初めて聴く人も楽しめて、500席以上ものネタを持つ深みがあります。「この人に弟子入りできなければ、講談師を諦めてもいい」。そのくらいの思い入れがありました。しかし臆病者の僕は、石橋を叩くわけです。入門した先の師匠と合わなければ、最悪、移籍する場合も稀にありますが、僕には「師匠は一人だけ」という確固たる思いがあった。失敗は許されません。

そこで入門を志願する前に、リサーチをしましたね。閑古鳥の鳴く講談界にあって、松鯉には多くの弟子がいた。しかもお弟子さん一人ひとりの個性が立ち、腕もいい。これだけでも師匠の指導力が際立ちますが、僕は寄席に通いながら、お弟子さんたちの声を聞き集めたんです。すると「記憶力のある若いうちに、まずはネタを覚えろ。技術は後からついてくる」という師匠の教えが分かった。生意気ながら、この教えは僕の考えと一致しました。「やはり松鯉しかいない」と思いましたね。

――お弟子さんの声まで聞くとは、入念なリサーチですね。

松之丞:それは入念にもなりますよ。入門を世間になぞらえれば、就職です。皆さんだって、徹底的にリサーチするでしょう。師匠によって方針もいろいろですから、「前座のうちに覚えるネタは3席でいい」という方もいます。でも、僕の考えとは違った。考えの違う師匠のもとに入門したら、ストレスが溜まっていったはずですよ。

それに高座に上がるお弟子さんたちが一様に、「師匠のことが大好きで」という話をするんです。加えて、師匠が講談の協会だけでなく、落語芸術協会の一員であることも大きかったですね。師匠が芸協の一員なら、弟子も所属することになります。芸協には多くの芸人が所属しているため、自分の糧になるだろうと。こう改めて挙げてみると、やっぱり師匠は完璧でしたね。唯一、愛煙家ということくらいでしたよ、嫌だなと思うのは(笑)。僕はタバコの煙が苦手なので。

プロとしての自覚を植え付けながら自由を許す

――そして松鯉さんのもとに入門。松之丞さんが肌で感じられた、松鯉さんの指導力について聞かせてください。

松之丞:うちの師匠は「俺の午前中は弟子にくれてやる」というくらい、指導に時間を割く人です。講談は歴史物語の読み上げを基本とするため、いわゆる完コピを求められますが、師匠は「一言一句同じようにやれ」とは言わない。「おかしいところは直してやるから、自分の色を出せ」という教え方です。この自由を許す度量があるからこそ、弟子ごとの個性が立つし、僕の芸があるのも師匠のおかげです。完コピを求められていたら、講談という芸を窮屈に感じていたでしょうね。

――しかし自由を許すのは、なかなか難しいことですよね。これは一般企業にも置き換えられますが、個性を重んじて自由を許すと、ダレてしまう人もいます。

松之丞:いや、めちゃくちゃ厳しいんですよ。基礎をみっちり叩き込まれます。うちの師匠は、厳しさと自由さのさじ加減が絶妙なんでしょう。絶妙さのベースには「芸人である以上、誰もがプロである」という、師匠の考え方があるように思います。師匠はよく、「ある程度のキャリアを積んだ講談師に一言一句真似をさせる教え方は、素人さんへの指導法なんだよ。もちろん前座はそれでいいんだけど、高座に上がる以上、入門一年目からプロ。だから自分の色を磨け」という話をします。

こう言われると、自然と背筋が伸びますね。単に自由を許すんじゃない。プロとしての自覚と誇りを植え付けながら、その上で自由を許す。放任ばかりでは、個性は身についても基礎が身につかない。厳しさと自由さを合わせ持った松鯉の指導法こそ、あるべき形だと思いますね。

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