神田松之丞 名人の死によって突きつけられた失敗が、僕を演芸の世界に導いた【前編】

失敗ヒーロー!

2019/10/16
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穴が見えているなら、穴を埋めていけばいい

――前座時代から、芸人としての一生を俯瞰されていたわけですね。その俯瞰の視点は「常連も、初心者も楽しめる」という、松之丞さんの講談にも表れている気がします。

松之丞:それは、確かにそうかもしれません。なにせ僕が入門した当時の講談は、本当に閑古鳥が鳴いていて。寄席の高座に上がっても、落語を聴きに来たお客様ばかりです。講談がどんな芸かさえ、知らないわけですよ。しかも笑いの落語に対し、じっくり聴くのが講談。となると、まずは講談が何たるかをわかりやすく説明し、落語を聴きに来たお客様を引き込まなきゃいけない。これは会場全体を俯瞰しなければ、できないことです。

さらに言うと、前座の持ち時間は非常に短い。本来は30分あるネタを10分で聴かせることもザラです。30分を10分に短縮するには、ネタを編集しなきゃいけない。ふつう前座っていうのは、こうした編集はしないものですが、僕は一つのネタをどう料理し、寄席の流れを考えて次の芸人につなげるか、入門一年目から考えていましたね。

――松之丞さんは「講談復活の旗振り役」を自認されていますが、もしかすると入門当初から、復活の担い手となる意識があったのでしょうか?

松之丞:復活や旗振り役なんていうと大仰でね、僕は「講談って面白いのに、どうして人気が出ないのか。多くの人に聴いてもらいたいのに」と、そう思っていただけです。講談って確かに、初心者にはハードルが高いんですよ。独特の言い回しがあるから、耳慣れないうちは何を言っているのか分からない。それでいてネタのあらすじを解説するパンフレットも、入門書の類いも皆無だったから、初心者が敬遠するのも当然です。

しかし敬遠される理由が見えているなら、その穴を埋めていけばいい。耳慣れない昔言葉を噛み砕いて伝えるのも、入門書の出版も、穴を埋める行為に過ぎません。世間の皆さまは、こうした僕の活動に対して「旗振り役」と称してくださいますが、活動の根っこにあるのは「講談の面白さを多くの人とシェアしたい」という一心です。最近ではバラエティ番組への出演も増えましたが、これも講談の面白さを広めたいから。講談は一人語りの芸のため、共演者との対話を要するバラエティ番組は、正直、苦手です。ただし限られた時間でトークすることの下地は、寄席の現場で鍛えられています。良い環境で育てられたと、改めて思いますね。

後編では・・・

「僕は臆病者」「前座仕事は嫌だった」——。こうした言葉に若き日の葛藤がにじみながらも、全体を俯瞰する冷静な目線で、自らの道を切り開いてきた松之丞さん。後編では、どのように入門先を見極め、どんな師弟関係から芸を磨いていったのかを伺い、古典芸能の世界に生きる松之丞さんの視点から、マネジメントの極意を探っていきます。

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