【前編】有栖川有栖、恩田陸ら大絶賛! ミステリ界の超新星・逸木裕が大切にしている言葉とは?

思い出す言葉

2016/12/06
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校閲のツッコミは地味にスゴイ

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――本作品は、完成までに大幅な改稿があった旨を伺いました。どのあたりが変更されたのでしょうか?

逸木 やはり晴のキャラクターでしょうか。最初、晴はもっと世界に対して牙をむくような存在だったんです。その晴の思想を、世界に対して距離感を感じる工藤が受け継いでいく……というストーリーラインを立てていました。最初は、もっとサスペンス寄りの話だったんですよ。

――なるほど、確かに完成稿ではサスペンス要素は抑えめにされていますね。

逸木 主人公・工藤のパーソナリティについてもそうですね。ストーリーラインとして「子どもっぽい、人を見下すような工藤が、徐々に真人間に戻っていく」というものがあります。ですが、受賞原稿の時点ではその要素がうまく出せていませんでした。ラストシーンこそ変わっていないのですが、着地に至るまでの過程が説得的になっていなかったんです。こちらは、担当の編集者さん(株式会社KADOKAWA)にご指摘いただき、修正を加えることでうまく着地できました。
 
それから囲碁の話が出てきますが、この話も当初「人工知能が、歴史上初めて囲碁の名人に勝つ」というツカミがありました。ところが、応募して選考過程に乗っている最中の2016年3月、人工知能『AlphaGo』がプロ棋士・李世ドル(九段)に勝つという事件がありまして。

――物語を、現実が追い越したんですね!

逸木 そうなんです(笑)。それで、そこも大幅に変えることになりました。

――改めて、人工知能の進歩の速度を感じますね……それ以外の箇所では、どんな変更がありましたか?

逸木 こちらは校閲さんからいただいたご指摘ですが、あるシーンでハードディスクからデータを引き出す箇所に修正が入りました。***(ネタバレ回避のため伏せ字)が***の家からハードディスクを盗み、データを吸い出すという描写があります。このシーンで、私は最初UbuntuというOSに繋いでWindowsをブートしてそこからデータを吸い出すという書き方をしました。しかし、「技術的に違うのではないか」というご指摘が校閲さんから入ったんです。

――えっ、技術者の逸木さんに対してそんなツッコミが!

逸木 そうなんです。これは私自身も勘違いしていたところで、実際にはSATAというケーブルに繋いで吸い出すという描写に変わりました。
 
――校閲さんは「校閲のプロ」であって技術者ではないはずなのに、そんな細かいところまで見逃さずにチェックを入れ、修正提案までしてくるとは……テレビドラマにもなってますが、校閲さんというのは本当に「地味だけどスゴい」職業ですね……。

逸木 他にも細かい日本語の間違いを洗い出していただいていますし、稿を重ねる度に的確な修正を入れていただいています。本当に助かっています。

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人の意見をどこまで取り入れるか?

――ここで、同席していただいている逸木さん担当の編集者さんにもお話を伺います。様々な作家さんを担当されておられると思いますが、逸木さんが特に際立っているのはどういう部分ですか?

逸木 この質問、怖いですね(笑)。本人がいる前で。

担当編集者 (笑)とにかく真面目ですね。メールの文面ひとつとってもそうですし、修正についての対応もそう。いま二作目の原稿を頂戴していて、修正箇所についての意見をもらったときは「私はこう直そうと思っています」という文面をいただくのですが、とても論理的です。

――なるほど、ご自身で書いたものについて、足りない部分を言語化する能力にも長けておられるのですね。

逸木 言語化できているかはわかりませんが、客観視して「これはこうしたい」という要望は出そうと気をつけてはいます。やはり、最初は読者のいない状態で書いていますから。先ほど述べたような主人公・工藤が徐々に真人間に戻っていく心の動きの部分然り、担当編集さんの指摘で初めて気づいた点は多いですね。登場人物の心の流れがおかしいと、読者は戸惑ってしまうので。

――仕事全般にも通じる部分ですね。自身を客観視する能力と、第三者の意見を取り入れる柔軟性と。第三者チェックが入らないと、仕事は完結しないものだと思います。ただ、編集者さんと意見がかち合うときもあったと思いますが、その際はどちらを優先させたのですか?

逸木 今回に関しては、ほぼすべて編集者さんの意見を採用しています。

――それは、本を出すことに関しては編集者さんがプロであるからですか?

逸木 そうですね。私は出版という分野では完全に素人ですから。プロとしてのノウハウが蓄積してきたら「その修正は違うんじゃないですかね」というような局面は出てくると思います。でも、今回は編集者さんのご指摘を全部受け入れて改稿を進めました……と思っていますが、担当編集さんいかがですか(笑)。

担当編集者 はい、すごくよく直していただいたと思います。

逸木 よかった(笑)。

<後編へ続く>

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