「私の年収、低すぎ…?」の原因はデフレ経済?『キミ金』の作者・井上純一さんに聞きました

「働く」を考える。

2019/08/29
Pocket

1990年代には世界第2位の経済大国であった日本は、バブル崩壊以降、「失われた20年」と言われる長期のデフレ経済へ。その間に、アジア諸国、とりわけ中国は大発展を遂げ、日本を追い抜いていきました。
この不況の原因はどこにあるのでしょうか? ゆとり教育? 非合理的な働き方? クリエイティビティの不足? 単なる根性の欠如? 何かと個人の資質に求められがちなその原因を、きっぱりと「日本の金融政策のせいです」と語ってくれるのが、マンガ家の井上純一さんです。2018年発行の経済マンガ『キミのお金はどこに消えるのか』(以下、『キミ金』)のヒットを受け、今年、第2弾をリリースする井上さんに、経済とお金の流れを知ることの大切さを伺いました。

『キミ金』のきっかけは「うさん臭い経済トーク」

――井上さんが経済に興味を持ったきっかけは何だったのですか?

井上純一(いのうえ・じゅんいち)
TRPGデザイナー。漫画家。玩具会社「銀十字社」代表取締役 代表作:スタンダードTRPGシリーズ(SRS)『アルシャードセイヴァーRPG』、『エンゼルギア天使大戦TRPG The 2nd Edition』、『天羅WAR』他。著作に『中国嫁日記』『中国工場の琴音ちゃん』などがある。

僕の知人にアル・シャードさんという方がいるのですが、やたらと経済や金融に詳しくて、「日銀が円を刷れば景気は回復する」とか、経済をよく知らない僕にとって「うさん臭いなぁ」と思うような予言めいたことをよく語っていました。でも、2012年に安倍内閣が発足すると、アル・シャードさんが「これで景気は良くなる」と断言したんです。「安倍総理はデフレ脱却のために金融緩和すると言っている」と。言葉の意味もわからないし眉唾でしたが、予言通り景気は回復しました。それから一気に興味深くなってしまい、予言のたびに理由を聞いていたら僕も経済に詳しくなってしまいました。

――経済がわかるにつれ、面白さを感じて出版に至ったのですか?

面白さもありますが、危機感ですね。先ほど「景気が回復した」と言ったものの、実態はアクセルとブレーキを同時に踏むような政策が行なわれています。日本は長くデフレが続きましたが、今の黒田総裁が始めた金融緩和政策はデフレの解消に効果があります。お金を供給することで需要が増やせるからです。一方で消費税増税はこの世のお金をなくすことで需要を減らす政策なので、物価を押し下げてデフレになりやすくなります。これは政策への批判とかではなく、経済学の基礎知識なんです。

僕自身、経済不況に理由なんてないと思っていました。でも、そうじゃなかった。もっと経済のことを多くの人が知っておかないと、誤った認識や判断をしてしまうという危機感から始まったのが『キミ金』の連載なのです。

――誤った認識とは、例えばどんなことですか?

先ほどの量的緩和もそうですが、日銀が借金をして世の中にお金を回すことが景気を刺激します。例えば、高齢者への医療費負担や困窮家庭への生活保護に対し、社会に迷惑を掛ける存在であるかのような言説が見られますよね。でも、経済的な視点から見れば、まったく逆なんです。国が彼らを通じて市場にお金を流していくということが脱デフレにつながっているのです。そういった側面を知らずに、反対意見に流されてしまうのは悲しいことだと思いますよ。

低いと言われる日本の「生産性」。高めるカギは「賃金」

――経済を知らないことで起こる誤った認識として、『キミ金』の第2巻では日本企業の「生産性」の問題にも触れていますね。

そうですね。生産性というと、企業が業務量をそのままに人員を削減するなど、社員の頑張りによって実現することのように思われています。それでは一般的に企業の利益が増えるだけ。疲弊した社員は消費意欲をそがれて、社会全体の活力が失われていくと思います。

これもマクロ経済の観点から見れば、生産性というのは賃金と消費に左右されるんです。賃金が高まることで、消費意欲が高まり、モノやサービスが売れやすくなる。回りまわって自分たちの仕事の利益が出やすくなって、生産性が高まるんです。日本の生産性が低いのは、みんなの頑張りが悪いわけではなくて、単純に賃金が低いだけの話なんですよ。賃金を上げれば、生産性は上がるんです。

――最低賃金の上昇は最近のトピックスにもなっていますね。

韓国で急撃な最低賃金の引き上げをした結果、失業が増えたので次回は引き上げ率を大幅に引き下げることになった。これを理由に日本の最低賃金の引き上げ反対の根拠にする人がいます。ポイントは最低賃金の引き上げだけでなく、そうすることで企業が利益を得られるようにすることです。

「中国のシリコンバレー」と言われるまでに経済成長した深センでも、かつて数%ずつ段階的に工員の賃金を上げる政策を打っていました。その結果、製造コストは高まってしまいましたが、人に紐づく技術が根づき、「ここでないと作れないもの」があるから世界中からお金と人が集まっています。

経済学は正解のない学問

――自分で経済や金融政策を見定める知識を持たないと、さまざまな意見に踊らされてしまいそうですね。

そうですね。でも実際、経済学者の言うことって、みんなバラバラなんですよ。経済は生ものですから、1つの学説が当てはめる状況によって正しいケースと誤りになるケースがある。正解がないんですよ。『キミ金』で扱っている情報は先鋭的な学説ではなく、経済学の基礎や定番の学説です。だから私でも書けるのですが、それでもこんなに蒙が啓く思いができるのだから経済学は面白いですよ。それに、マンガ家としても、経済をテーマにして描くのは面白いし、売れやすい(笑)。もっと多くのマンガ家に挑戦してもらいたい分野です。

――経済学の中でも、働く人々が知っておくといいオススメの知識はありますか?

経済学に「地位財」という概念があります。これは、他人との比較によって初めて価値が生まれる財を指します。例えば、高級車はそれ自体にも価値がありますが、他人と見比べたときのステータスとしての価値(地位財としての価値)があるわけです。ブランド品は、商品そのものの価値ではなく、高い値段そのものに意味がある。そこを見誤ると、商品・サービスに対するマーケティングや価値づけに失敗してしまいます。『キミ金』の第2巻では、バーゲンセールの目的は「商品の値段を下げないこと」という、一見矛盾したマクロ視点の話も掲載しています。ぜひ、読んでみて欲しいですね。

マネたまご マネたまをフォローすれば最新記事をお届けします!
運営会社 | Copyright © kaonavi, inc. All Rights Reserved.