「イノベーションは無駄から生まれる」。AIの普及で好きなことを追求できる働き方に【後編】

「働く」を考える。

2020/03/25
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あらゆる生物は、生き残るために群れを形成します。人間も家族や会社組織などの、言うなれば”群れ”を形成しています。そもそも、長い歴史の中で人間はどう群れをつくり、リーダーを立て、どう機能させてきたのか。そしてこれからの組織やリーダー、働き方はどう変わっていくのか。

その根本を、早稲田大学名誉教授で生物学者であり、TV番組のコメンテーターとしても活躍する池田清彦さんに、生物学の観点を交えて語っていただきました。

DNAに関する発見はデートから生まれた

――近年、会社経営において多様性を示すダイバーシティーが重要視されています。この多様性を確保・推進するために企業はどうあるべきでしょうか?

日本の会社はもっと意識的に無駄なことをするべきだと思う。日本人はリスクを嫌うから、どうしても売上が上がりやすい仕事に時間やお金といったリソースを集中させがちだよね。だけどそういう仕事ばっかりしている組織には、平凡な人しか集まらない。

一方で、くだらないことを許容する器がある会社は、ほっといてもいろいろな個性を持った人が集まって、自然と多様性が高くなっていくよね。たとえばGoogleがそうでしょ。「労働時間のうち20%は普段の仕事と離れて好きなことをしていい」といういい加減さがあったり、変わり者を許容する文化があったりするから、どんどんいろいろな人が入ってくる。

実際に、イノベーションは一見無駄に思えるようなことがきっかけで起きることが多いんだよ。例を出すと、1993年にノーベル化学賞を受賞したキャリー・マリスという人がいて、マリスはDNAの塩基配列を紐解く原理、PCR法を一番最初に実用化した研究者で。DNAを読むためには二重になっている螺旋をほどかなくちゃいけないんだけど、それをほどくためには熱を使うんだよ。97℃ぐらいの熱をかけるとほどけるんだ。それで、ほどいたDNAを読むために今度は酵素を使うんだけど、普通の酵素は97℃の高温には耐えられなくて、バラバラに壊れちゃうわけだ。

「うまくいかねーなー」といろいろ試していたら、マリスがよく彼女とデートで行っていたアメリカのイエローストーン国立公園の間欠泉という温泉のことをふと思い出すんだよ。「そういえばあの温泉の中にいる細菌って、90℃や100℃の高温に耐えて生きてるよなー」って。それで、実際にイエローストーン国立公園に行って間欠泉の好熱菌から酵素を取り出して実験してみたら、高温の条件下でも壊れずに見事成功したと。

こういうひらめきも、彼女をつくったりデートしたり、遊んだりという無駄な時間があって、余計なことをしていたからこそ生まれたわけだ。その無駄な時間のおかげで、今やDNAの解析は1日かからずにできるほど進歩したからね。

池田清彦
1947年7月14日生まれ、東京都出身。東京教育大学理学部を卒業し、東京都立大学大学院理学研究科博士課程を単位取得満期退学。東京都立大学理学博士となる。専門分野は、構造主義生物学・理論生物学、生物多様性・分類、科学哲学、科学社会学・科学技術史など多岐にわたる。現在は山梨大学名誉教授と早稲田大学名誉教授を務める。趣味は昆虫採集。

イノベーションを妨げるのはルーティーン作業とリストラ

――そういう無駄なことからイノベーションを起こす機会を増やすために、会社は何をするべきでしょうか?

まずは従業員に、朝から晩まで同じようなルーティン作業をさせないことだよね。あとは同じ制服を着せるような、型にはめる経営から離れたほうがいいと思う。昔はそれでもうまくいったんだけど、それは工業化社会の時代に大量のモノをつくるために同じ作業を繰り返す作業員が必要だったから、という話で。今の時代は作業員はほとんど機械やソフトに置き換わっているんだから、昔と同じ考えで経営や組織づくりをしようと思ってもうまくいかないよ。

あと、リストラは良くないね。リストラは短期的には人件費が下がるぶん業績は上がるけど、一度するとそこで働いている人間は、今度はいつ自分が切られるかと気が気じゃなくなっちゃう。そんな会社は残らないよね。働いている人が楽しい、面白い、この会社のために何かしたいと思えるようにしないと。


▲生物の謎や仕組み、進化について解説した書籍「初歩から学ぶ生物学」と、生死やAI、市場原理などに対する考えをまとめた書籍「本当のことを言ってはいけない」

AIの普及で人はみんな好きなことをはじめる

――今後はAIによって、人間の働き方はどう変わっていくと思いますか?

AIの技術は、最終的には国有化されると思う。国民全員に必要な食料やエネルギーの計算をして、それらを安定的につくり出し続ける役割をAIが担えるようになったら、国が管理したほうが手っ取り早いから。そうなるとほとんどの仕事はなくなることになるよね。食べていくために必要な作業は全部AIがしてくれて、最終的に人間は何もしなくても生きていけるようになる。そうなるのは、今から100年後ぐらいかな。

働かなくてよくなると、人間が今まで仕事に費やしていた時間がそのまま浮くから、みんな好きなことをするために勉強を始めると思う。それはお金のためじゃないだろうから、勉強にも身が入って学問や研究はもっとスピーディーに進むかもね。それに、「お金はいらないから仕事をさせてくれ」という人も出てくるんじゃないかな。

――そんな世界が待っているかもしれないんですね。AIに仕事が置き換わっていく中で、どう仕事を選んでいくべきでしょうか?

コンピューターやAIにできないことは何か、という軸で考えるといいんじゃないかな。医者が今している診察はAIがしたほうが早いし、的確だと思うよ。症例のビッグデータを使えるから。だけど患者さんが初診以降も気分よく診察を受けに来てくれるように対応したり、信頼してもらえるようにコミュニケーションを取ったり、病院の雰囲気を良くしたりというのは、人間にしかできない。AIは患者さんそれぞれの個性や好みや嗜好といった、細かい部分までは汲み取れないから。

だから人と人が直接関わり合ってケアしたりサポートしたりするような仕事は、当分なくならないだろうね。介護はその最たる例かもしれない。

世間をちょっとナメるくらいがちょうどいい働き方

――ユーザーの中には、働くことやマネジメントに対して悩みを持っている人が一定数います。最後に、そういった方たちにアドバイスをお願いします。

肩ひじはらずに、世間をちょっとナメるくらいの気持ちでいい加減に働くのがいいと思うよ。

僕は長年大学で教授をしてきたけど、本当はできるならずっと虫を採って暮らしたかったんだ。といっても虫採りだけでは食べていけないから、しょうがなく教授になった。教授になるとそうそうクビにならないしね。それからは、教授の仕事はそこそこにして虫採りと原稿書きの生活をしていたよ。大学で出世しようなんて思ったことは一度もないし、最後のほうは教授会を時々サボっていたし(笑)。

世間一般の常識では「しっかり真面目に働かないとダメだ」みたいな考えがあるけど、そういうことはあんまり気にせず、いい加減に楽しんでするのが大事だよ。実際に僕の周りで仕事で成功している人たちは、世界はナメないけど、世間をちょっとナメながら楽しんで仕事している人が多いよ。だから、「会社はいつでも辞められる」ぐらいの心持ちで働けば、仕事もマネジメントももっと楽にできるんじゃないかな。

取材・文 観音クリエイション


池田清彦さんの著書

初歩から学ぶ生物学
著者:池田清彦
出版社:KADOKAWA/角川ソフィア文庫
発売日:2019/3/23

本当のことを言ってはいけない
著者:池田清彦
出版社:KADOKAWA/角川新書
発売日:2020/1/10

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