【前編】「逆境を前に、それでも自らチャンスを掴みにいく」堀潤(ジャーナリスト・8bitNews主宰)

逆境ヒーロー!

2019/03/12
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毎日が権力との戦いだった『ニュースウオッチ9』時代

――ただ待つのではなく自らチャンスを掴みにいったからこそ、仕事の環境が変わっていったのですね。当時、印象に残っている取材現場はありますか?

堀:そうですね。はじめてカメラマンと取材に行った時のことは忘れられないです。海でフェリーが何かに当たったというニュースで、「防衛省に来ました」とカメラに向かってリポートしたんですが、ようやく現場で使ってもらえたと、うれしかったんでしょうね、つい顔がほころんじゃったんです。そしたらカメラマンの先輩がその映像を見せてきて「堀、これ普段の顔と一緒? 俺には笑っているように見える」と指摘してくださって、もう一回撮り直すことにしました。

彼は当時30代後半で名報道カメラマンだったんですが、僕がまだ全然仕事がない時によく飲みに誘ってくれたんです。「新番組は当たればいいけど、大抵は失敗して消えていく。もし失敗した時にこの組織の一番弱いところにしわ寄せがくるぞ。つまり、堀のせいだ! という話になる可能性がある。でも俺が必ず守ってやるから好きなようにやったらいい」と言ってくれたんですよ。

もし無防備に「防衛省に来ました!」という僕のにこやかな顔が報道されていたら、その後のリポーター生命は危なかったかもしれない。「給料泥棒!」と叩かれるような逆境だらけのなかで、そういう素敵な先輩が助けてくれることもあったんです。

――当時、『ニュースウオッチ9』は視聴率1位にもなっていましたよね。局内の反対勢力として、やはり手応えはあったのでしょうか?

堀:NHKを改革するための反対勢力ですから、番組自体が潰されてしまったら元も子もありません。局内で認められるためには、視聴者が『ニュースウオッチ9』を必要としてくれることが一番大切なんです。ですから視聴率は絶対に必要で、そこにはかなり貪欲でした。バチバチの戦いでしたね。『ニュース7』が白と言っても、事実が黒なら『ニュースウオッチ9』は黒と言う。権力側を主語にしないで、現場の声を視聴者に届けなければいけないという理念がありました。

ある街のカラオケ店で火災が起きて子供が亡くなってしまいました。そのカラオケ店は実は違法営業していたんです。『ニュース7』では消防員たちの会見の内容が流れていたんですが、消防員たちはそのカラオケ店の存在を知らなかったと発表したんです。でも現地での取材の結果、消防署はそのカラオケ店の存在を知っていて、よく利用していたことが発覚したんです。「消防署は知らなかった」と発表した『ニュース7』の2時間後には、僕らの番組で「消防署は知っていた」と真逆の内容を放送するなんてことも平気でありましたね。

局内の誰にも僕らが掴んだ新しい情報を知られないように『ニュースウオッチ9』班だけしかアクセスできないようパスワードをかけて、オンエアするまで徹底的に秘密にしていました。僕らの番組がはじまって蓋を開けた時にはじめて騒ぎになって、「誰だ、これを流したのは!」と誰かが急いでスタジオに飛び込んできますが、もう流れちゃってますから(笑)。毎日がそういう戦いでした。プロパガンダをどう打ち崩すか、どうしたら市民の放送局でいられるか、チーム一丸となって徹底的に取材に打ち込める理想の環境だったと思います。

人の心を動かす“刑事コロンボ”作戦

――他の番組が入手できないような情報を手に入れるためには、どのように現場取材をしていたのでしょうか?

堀:“刑事コロンボ”作戦というのをやっていました(笑)。何か知っていそうな人にその事件について話を聞いていくんですが、相手がほっと一息ついた帰り際に「あ、ところで」とあえてたわいもない話と見せかけて核心を突いていくんです。

このやり方は先輩たちの姿を見て学んだんです。目撃者らしい人を見つけた時、すぐ事件の核心に迫りたくなってしまうんですが、先輩はそれを抑えて「寒いですねえ。春先にはこの辺りはどんな花が咲くんですか?」とあえて普通の話から始めていたんです。何気ない会話から証言につながっていくということを先輩は分かっていた。本当のことを話してもらうための導線をつくりながら、核心に迫っていく。それが上手な取材なんだなと思いました。Aの質問をしてAのアンサーというほど簡単ではない。初対面の人に自分の核心に関わるようなことを話さないのは当たり前なんです。

先ほどお話ししたカラオケ店の火災事件も、「概要だけでももう一度教えてください」と事件について特に何も知らないふりをして、消防署の広報の方とアポを取りつけました。そして部屋に入り、一通り話を聞き、インタビューも終わりかけたタイミングで「本当は消防員の方々はあのカラオケ店をご存知だったんじゃないですか?」と核心を突く質問をしたんですね。

「どうしても本当のことが知りたいんです」と伝えたら広報の方が涙を浮かべ、「あの発表は間違いです。私たちはあのカラオケ店を知っていました」と認めてくれたんです。でも、その証言をそのまま放送することには、実はためらいもありました。この方に許可なく放送してしまうこともできたけど、事実を公表できなかったやむにやまれない事情があるかもしれないし、その職員はおそらく職を失うことになる。何でもかんでも放送する思いやりのない“マスゴミ”にはなりたくなかったんです。だから「本当に放送していいですか?」とその方に確認しました。そうしたら「ぜひ事実を伝えてください」と。本当に立派な方ですよね。

――堀さんがNHKの面接で「一生懸命説明すれば変えられる」とおっしゃったように、堀さんの想いがその広報の方に本当のことを言う勇気を与えたんですね。

堀:そうですね。1年くらい後になって、新聞にこの火災の記事が載っていました。亡くなった子の親御さんが「本当のことを知りたい」と裁判を起こされたという小さな囲み記事。もしあの消防署の広報の方が事実を教えてくれなかったら、その親御さんは嘘の情報を信じて生きていかなければならなかったかもしれません。それは本当のことを伝えられてよかったなと思ったと同時に、やっぱり大きなメディアは嘘をつくんだよなと確信した瞬間でもありましたね。

後編では…

前編では堀さんが現場で身につけていった取材術や、逆境に立ち向かう仕事のスタンスについてお伺いしました。後編では、NHKを退職後どのような想いでNPO法人『8bitNews』を立ち上げ運営していったのか、自身が思い描く未来をどのように現実にしていったのか詳しく伺っていきます。

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