2017/10/25 公開

震災後、スパリゾートハワイアンズ躍進の秘訣は福島ならではの「きづな」にアリ

福島で、〈仕事を作る〉ということ(第一回)

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人と人が引っ張り合うから「きづな」が生まれる

――震災後、スパリゾートハワイアンズは「きづなリゾート」としてグランドオープンをしました。まず、「きづなリゾート」のコンセプトについてお聞かせください
 
下山田敏博さん(以下、下山田) 東日本大震災の時、ハワイアンズも壊滅的なダメージから逃れることはできませんでした。正直言って、もうダメだと思いました。再起はできないと。でも、営業休止中にフラガールがキャラバンで日本全国を周ったんです。大震災後のどんよりとした日本に元気を届けようと使命感を燃やしながら。
そうすると、足を運んだ先々でわざわざ大変なのにありがとうのお声をいただいて、営業再開したら逆にフラガールに会いに行くよというお声を多数いただいたんですね。それでなんとかもう一度立ち直ることができたわけです。
その時に、やはり、人と人の繋がりが大事だな、と。人と人を結びつけることが必要だなと思ったのです。片方だけでは、ダメ。両方の端が引っ張りあって、人間の強さが生まれるわけです。フラガールたちの活躍で、そう気付かされ、我々は「きづなリゾート」として生まれ変わろうと思いました。

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▲スパリゾートハワイアンズ総支配人・下山田敏博さん

――なるほど、だから「きずな」ではなく「きづな」、つまり、「綱」なんですね。
 
下山田 はい。綱引きのことを考えていただければ理解は早いと思います。綱引きって、お互いに引っ張り合うわけでしょ。「きづな」の場合、強すぎてもダメだし、いい具合に引っ張り合わなきゃいけない。難しいけど、それが出来た時に、相乗効果で理想的な状況が生まれるわけです。そんな状況をこれからも、ハワイアンズで作っていきたいということで、人と人がコミュニケーションできる場所と時間の創造を築き上げるために「きづな」というコンセプトを作ったんです。

――「きづなリゾート」というコンセプトが生まれたのは震災からどれくらい経ってからなんですか?
 
下山田 2011年の10月1日が部分オープンの日なんです。被害状況が本当に壊滅的だったので、一部分でしかオープンできなかったんですよ。お客様に満足していただける状態じゃなく。年が明けて、翌年の2月8日にようやくグランドオープンをしました。その時に、さぁハワイアンズもいよいよ再生して全面オープンするぞ!ってみんなで一致団結したので、その頃ですね。

――フラガールはどれくらいの間、全国を旅したのですか?
 
下山田 キャラバン隊が日本を周り始めたのは余震が落ち着いてきた頃のゴールデンウィークでした。それから部分オープンの前日9月30日までの5ヶ月間、あちこちをフラガールたちが周ってくれました。オープンをしてからは、お客様を受け入れるためにハワイアンズに戻ってきてくれたんです。彼女たちのおかげで、ハワイアンズは震災後も息を絶やすことがなかったんですね。

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▲震災後のフラガールたちによるキャラバンの記録

――キャラバン隊は具体的にどのような活動を行っていたのでしょうか。
 
下山田 5月3日にいわき市内の避難所への慰問公演をスタートし、全国各地の被災地や炭礦ゆかりの地などを周りました。各所からの要請が相次いだんです。それに応じて出かけたりもしました。「いわき応援大使」を委嘱されるようになりました。みなさんご存知の通り、震災の後は、世の中全体がとんでもない状態でしたよね。ですから、ハワイアンズのために周ったわけではなく、積極的にできることを前に出てやろうとその一心で応援に行ってくれたわけです。訪問先は全国26都道府県125か所、公演回数247回に上りました。

――そこから「きづなリゾート」が誕生するわけですが、「きづなリゾート」としてスタッフはどのような取り組みを行ってきたのでしょうか。
 
下山田 まず、スタッフに一定の方向を向いてもらう必要があったんですね。「こっちだ、こっちの方向に行くぞ!」っていう指針がなければいけない時期だったんです。大変な状況の中、お越しいただいたお客様をしっかりおもてなししなければいけませんから。それで、ハワイアンズでは「ワクワクプロジェクト」という取り組みをスタートしたんです。
まず、スパリゾートハワイアンズを世界一ワクワクする楽園にするための約束事を書いたクレドカードを作り、全スタッフに持たせました。約束事は三つです。「お客様の満足。」「安全を第一に。」「家族の絆。」当たり前のことしか書いていません。ただ、そういう目標も言葉だけだと、それぞれバラバラのものになり、違った考えになりがちなんです。まず、言葉のレベルで統一して、そこに書いてあるような約束事を必ず実行する。その上で、その行動の質をあげていく。そういった取り組みを震災の後、ずっと行ってきました。

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――それは今でも続けてるんですか?
 
下山田 はい。おかげさまで、「ワクワク」という言葉が社内で定着しまして、今は半年ごとにテーマを決めてやっています。現在、ちょうど11クール。6年間欠かさずやっています。スタッフはみんな一生懸命やっていまして、ロールプレイを中心にどうやってお客様に対して最高級のおもてなしをできるか日々、考えています。トレーナー役には女性のスタッフを任命しました。女性は厳しいですから、私も参加してるんですが、遠慮なく指導が入ります(笑)。
今のはダメですよってね(笑)。でも、そうやってお互いに同じ目標に向かってると、まず我々がワクワクしてくるんですよ。そのワクワクがお客様に伝わればいいなと思って、スタッフ一丸となってやっています。これからも続けますし、辞めるつもりはありません。継続は力なりですからね。より高いレベルに引き上げていきたいなと考えています。

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――つまり、スタッフも一つの「きづな」でまとまるようなプロジェクトでもあるってことですね。
 
下山田 それをやらないとバラバラになってしまうので。震災後、復興支援ということで多くのお客様にお越しいただきました。ですが、いずれ復興支援の風が弱まることは予想できますから。その時に、我々の本領をどこまで発揮できるか。お客様にお越しいただき、スパリゾートハワイアンズの対応すごく良かったね、と満足していただけるようなおもてなしをする必要があるわけです。もう一回、あのスタッフに会いたい、あそこの料理が忘れられない。そう思っていただけるようなサービスを提供するために、まずはスタッフが同じ方向に向かって進んで行く。そのための旗ができたような感じなんです。

――震災が起きて休業を余儀なくされ、そこから見事に立ち直ったスパリゾートハワイアンズですが、実際の被害はどのようなものでしたか?
 
下山田 一番の被害を受けたのは実は、1ヶ月後の4月11日の余震なんです。施設を横断するように断層が走っていたのが原因で、ハワイアンズの施設全体が大小差はありましたがめちゃくちゃになってしまって、再開まで時間がかかってしまいました。修復をしようにもあちこちがすきま風だらけで、ドームの中の南国の植物も枯れてしまって。かわいそうなことをしてしまいました。

――そこから休業期間に入ったわけですね。その期間、最も苦労した点はどのようなものでしたか?
 
下山田 苦労といいますか、最も尽力したのは避難されていた方々の受け入れです。いわき市の北に面したところに広野町がありまして、事故を起こした原発から30キロ圏内に入ってるんです。町自体はもちろん強制退去になってしまいました。一旦は埼玉県へ避難されたのですが、やはり、心情的には生まれ育った土地に近いところが良いのでしょうね。
福島に戻りたい方が多数いらっしゃったのです。それで、町から要請がありまして、ハワイアンズが受け入れを行いました。しかし、やはり、対応は一筋縄ではいきませんでした。ホテルは日常生活をする場所ではありませんから。避難の方々は1日平均すると350名くらい。全員の食事を作らなければならないわけです。お風呂もいつでも使えるように準備を整えて。避難の方々が安心して過ごせるようにスタッフ総出で対応しました。でも、その時間があったおかげで、グランドオープンした時には、ハワイアンズに避難されていた有志の方々が、わざわざ駆けつけてくださって、「おめでとうございます」と面会に来てくださいました。

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――率直な質問をさせていただきたいのですが、お客様が戻ってこないかもしれないっていう不安はなかったのですか?
 
下山田 当然ながらありました。放射能の問題でいろいろありましたし。風評被害にあうかもしれないと想定もしました。でも、自分たちでやるだけやってダメだったら仕方ないじゃないかという気持ちで臨みました。お客様が戻ってこなかったら、その時は次の手を考えるしかないって。でも、この地域の方々って協力的で、いろいろと支援してくださるんですよ。震災以前、ハワイアンズのお客様でこの町は賑わっていました。たまに迷惑をかけて怒られるくらいだったんです。それが休業している間、シーンとしているわけですから、地域の方々から「やっぱり寂しい」「早くオープンしてくれ」とお声をかけていただきました。たくさんの応援のお言葉があったおかげで、踏ん張ろうという気持ちになったわけです。あの時も、人と人の「きづな」が網の目のように張っていたんだなということを痛感しました。

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