藤村忠寿 今に必死になれ。『水曜どうでしょう』が教えてくれたこと【後編】

失敗ヒーロー!

2020/03/11
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社員100人の話を聞いてわかった「人は休むのが怖い」

――藤村さんはHTBにおける、労働組合の委員長も務められていたそうですね。しかも、自ら志願されて。その理由は、何だったのでしょう?

藤村:それも『水曜どうでしょう』を守るためですよ。副部長になる前、30代前半だったんじゃないかな。海外ロケにも行き始めて、視聴率も好調で、すると社内に妬みが生じる。そりゃ、仕方ないと思います。俺が逆の立場でも「アイツらだけ、好き勝手にやりやがって」と思ったでしょうから。それでも無視していては、番組が危ない。社内の嫉妬を和らげるために、労組の委員長に立候補したんです。

労組の委員長として何をしたかって、とにかく社員の話を聞くこと。当時は100人くらいの組合員がいたから、お昼休みを使って一人につき30分。全員の話を聞くのに、3カ月はかかったかな。人はじっくり話を聞いてもらうと、安心するでしょう? 「この人は自分の話に耳を傾けてくれた。理解してくれたに違いない」と、信頼を勝ち取れるんです。思惑通り、俺に対する文句、つまりは『水曜どうでしょう』に対する文句も鎮静しましたよ(笑)。

――なんというか、大胆にして戦略的ですね(笑)。しかし、それだけのお話を聞いたとなると、働き方への問題点が浮き彫りになったのではないでしょうか?

藤村:俺ね、労組の委員長の時に、社員全員に1カ月間の休みを与えてはどうかという提案をしたんだよ。俺も嬉野さんも自主的に休みを申請していたけど、みんなの話を聞いていると、あまりに休みが少ないことがわかって。ローカルのテレビ局って1日に数十分程度、地域に必要なニュースを流せば、法律的な役目は果たせるんです。放送法の免許違反にはならないから、少しずつローテーションすれば、1カ月の休みも不可能じゃない。

1カ月間の休みがあれば、旅行にも行けるし、日がな1日テレビも見られる。非日常の旅に出ることも、ボーッとテレビを見ることも、テレビが仕事の人間にとっては、これほどの学びはありませんよ。こういう提案をしたら、意外にも社長は乗り気で。「一考してみる価値はあるな」と。ただ、さらに意外だったのが、俺の提案を聞いた組合員のほとんどが反対。「そんなに長く休みを取ったら視聴者が離れてしまう。それが怖いから反対です」と言うんだよ。

未来は想像しない。今に必死になれ

――1カ月の休みは嬉しいものの、その怖さも理解できます。最後に教えてください。どうしたら怖がることなく、藤村さんのような決断ができるのでしょうか?

藤村:俺が思うにね、多くの人が、物事を長いスパンで見過ぎなんですよ。未来はわからない。わからないのに先のことばかり考えていては、怖くなるのは当然でしょう? 結果的に、自分を追い詰めてしまう。俺はそういう苦しさが嫌いだから、怖くなったら、中途半端な状態でも逃げ出します。ゴールデンタイムに放送した『水曜どうでしょう』が視聴率20%を取れず、そこでもう、高視聴率は目指さないと決めたのも、全く同じこと。やみくもにいつ届くかわからない20%を目指しても、苦しいじゃないですか。

だから俺は、先の怖さを想定するより、今に必死になる。自分が怖がらずに生きるためには、今、何をすべきかを真剣に考えるんですよ。1カ月の休みがあるなら、休み明けの視聴者離れを怖がるより、1カ月の空白があっても離れない視聴者を生むための策を考える。そのほうが怖くないし、生産的だし、俺はそういう人間でありたい。だって、長い休みを怖がるのって、恋人に捨てられることを恐れて、毎日のように大量のメールを送るのと一緒ですよ。そんな男より、長い旅に出ても安心して帰れる場所がある、そういう男でいたいじゃないですか。これは女性も一緒。みんな、そういう人間を目指しましょうよ(笑)。

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