藤村忠寿「自分が面白いと思うことをする」『水曜どうでしょう』の本当の価値【前編】

失敗ヒーロー

2020/03/10
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華々しい成功の裏には、失敗や挫折がある。その失敗エピソードから成功の秘訣をヒモ解く『失敗ヒーロー!』。今回は新シリーズ放送の真っ最中である人気テレビ番組『水曜どうでしょう』の名物ディレクター、“藤やん”こと藤村忠寿さんが登場。同番組を高視聴率にしてご長寿番組に育て上げた手腕により、講演会にも引っ張りだこの藤村さんですが、キャリアのベースとなったのは「低視聴率と向き合い続けた日々だった」と語ります。その苦悩の日々から成功までをヒモ解くと、緻密なまでの戦略と自己の貫き方、さらには『水曜どうでしょう』への深い愛情が明らかに!

藤村忠寿(ふじむら・ただひさ)
1965年生まれ、愛知県出身。北海道テレビ放送(HTB)所属、『水曜どうでしょう』のチーフディレクター。1990年に同社に入社し、東京支社の編成業務部を経て1995年に本社制作部へ異動。翌年の1996年、ディレクターの嬉野雅道さんと共に『水曜どうでしょう』を立ち上げる。現在は役者やエッセイスト、YouTuberとしても活躍するほか、北海道大学公共政策大学院のメディアフェローにも抜擢。近著は『笑ってる場合かヒゲ 水曜どうでしょう的思考 2』、嬉野雅道さんとの共著に『仕事論』などがある。YouTubeでも『藤やんうれしーの水曜どうでそうTV』を配信中。

低視聴率と向き合い続けた若手時代

――藤村さんは『水曜どうでしょう』の盟友である嬉野雅道さんとの共著『仕事論』のなかで、「20代は我慢するしかない」というお話をされています。ご自身はHTBに入社された20代に、どのような我慢の日々を過ごしていたのでしょう?

藤村忠寿(以下、藤村):そりゃもう、過酷な仕事をしていましたよ。東京支社の編成業務部に配属されたものの、まずもって俺は、東京になんて行きたくなかった。東京って競争が激しそうでしょう? 嫌なんですよ、競争が激しいと埋もれそうだから。しかも編成業務の主たる仕事って、営業部が取ってきたコマーシャル枠に対し、その枠が埋まるようにCMを割り振ること。この仕事の何がツラいって、視聴率の低さですよ。

当時のHTBには視聴率1%程度の番組がゴロゴロあって、それでも営業の世界では、番組の価値を測る規準は視聴率だから。視聴率10%の価値が10だとするならば、視聴率1%の価値は1。視聴率1%の番組で100のコマーシャル枠を埋めるには、大量のCMを割り振らなきゃいけない。すると次第にCMの数が足りなくなって、営業の人間から「俺が取ってきた枠は、どう埋めるんだ」と突っつかれる。でも、番組そのものの価値が上がらない以上、自分の力ではどうにもならない。制作部に異動までの5年間、惨憺たる視聴率と向き合ってはどうにか枠を埋めるという、こんな仕事を延々と続けていたわけです。

「自分が面白いと思うことをする」ローカル局の戦略

藤村:編成を組むために視聴率を見続けたことで、その価値の重さがわかったんですよ。これは意外に思われるだろうけど、制作側の人間は、あまり視聴率に固執しない。その理由は視聴率の重みを知らないからですよ。でもですよ、視聴率を取らなければ、利益が上がらない。利益がなければ、企業として成立しないでしょう? この成り立ちを知っている以上、どんな手を使ってでも、視聴率を取ろうと思うのは当然のことですよ。
 
視聴率を取ろうとしたら、自分が面白がれる番組を作るしかない。『水曜どうでしょう』の根っこにあるのは、面白さと高視聴率を狙うことの両輪ですよ。運任せのハプニングが起これば、面白いだろう。そのハプニングが旅先で起これば、視聴率に結びつくだろう。番組開始から1年を待たずして海外ロケをしたのも、新聞のテレビ欄をにぎやかすため。当時はテレビ欄が一番、お茶の間への影響力が強かったから、「大陸横断!」なんて文字を躍らせるためにね。

――そうした戦略があったにせよ、制作の核は「自分が面白がれる番組」。高視聴率を狙えばこそ、自分の感覚を信じることに怖さが生じるように思います。

藤村:だって、自分自身を指針にするしかないでしょう? これが在京キー局であれば、話は別ですよ。キー局とローカル局では、圧倒的にパワーが違うから。このパワーって、要は資金力ですよ。資金力があれば、名うての構成作家を引っ張ってくることも、視聴率を取れる有名タレントを起用することもできます。でも、ローカル局にはできない。できない以上、自分を指針にするしかない。

自分を指針にするって、要は消去法ですよ。俺に若い女性にウケる番組が作れるのか。作れないだろう。それなら、ご老人にウケる番組はどうか。作れませんよ。それが俺と同世代の男性にウケる番組となれば、可能性が見えてくる。さらに突き詰めていけば、俺にはスポーツのセンスがない。ただ、お笑いに関しては、多少の自信がある。こういう風に消去法を重ねていくと、最後には、自分が面白がれるものしか残らないでしょう?

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