2016/10/17 公開

就業後の飲み会は残業代がかかる!?気になる質問を専門家に聞いてみた Vol.4

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ビジネスマンの楽しみといえば、仕事が終わってからの一杯!飲み会は同僚や先輩・後輩と交流をはかり盛り上がる場ですが、一方でトラブルも起こりがち。もしもアルハラ(アルコール・ハラスメント)で訴えられたら? 飲み会への参加を強制したら残業代が必要?など……。

深刻な問題から今さら聞けない疑問まで、様々なモヤモヤを解消するシリーズ「気になる質問を専門家に聞いてみた」。第4回は飲み会・アルコール編。実際に厚生労働省で企業を指導し、現在は数多くの企業から人事労務管理に関する相談に対応している社会保険労務士の安部敏志氏にお伺いしました。

筆者:安部敏志
大学卒業後、13年間、国家公務員I種として厚生労働省、外交官として在シンガポール日本国大使館に勤務し、長野労働局監督課長を最後に退職。労働基準法・労働安全衛生法等の政策立案、企業を指導する立場にいた経験を武器に、現在は会社(事業)を守る立場として、地元の福岡で社労士事務所を経営
人事労務管理の秘訣を本音で紹介するサイト:Work Life Funを運営

アルコールで企業の損害が起きる前に、まずは就業規則を整備しよう

ー今回は飲み会とアルコールをテーマにした疑問を解決いただければと思います!早速ですが、近年問題になっているアルハラについてお聞かせください。そもそもアルハラには、具体的な定義はあるのでしょうか。

アルハラは、「飲酒に伴う嫌がらせや人権侵害、相手を不快にさせる行為」を指しますが、法的に明確な定義はありません。そもそも、ハラスメントというのは英語で「いじめ」、「嫌がらせ」という意味です。どのようなものがいじめや嫌がらせに該当するのかは個々の感じ方にもよるため、具体的な定義が難しいのです。

ー同じ行動であっても、いじめだと思う人もいれば、気にならない人もいるというわけですね。となると、「○○だからアルハラ」とは一概に言えないのでしょうか。

明確な線引きをするのはやはり難しいですね。しかし、アルコールなどの依存性薬物問題の予防に取り組んでいる特定非営利活動法人アスクは、アルハラの定義として以下の5項目をあげています。

1.飲酒の強要
2.イッキ飲ませ
3.意図的な酔いつぶし
4.飲めない人への配慮を欠くこと
5.酔った上での迷惑行為

ーやはり常識の範囲内でお酒を楽しむことが大切なのですね。では、飲み会でのトラブルについて、実際にあった相談事例を教えてください。

実際にアルハラでのトラブルで相談を受けたことはほとんどないのですが、飲み会の参加が残業になるのかというご質問はよく受けます。

ー「飲み会に行きたくない」という声が目立つようになったと言われていますが、そういったお話が実際にあるんですね。ちょっと寂しいです……。

そうですね。最近は「ただでさえ残業が多いのに、さらに飲み会で会社の上司や同僚と顔を合わせたくない」と苦情が出るケースが多いようです。管理職が部下たちに飲み会の参加を促したところ、「それは業務命令ですか?」と質問されて困ってしまったというお話も聞いたこともあります。

ーお酒に関するトラブルを防ぐため、何か就業規則で定めておくことはできるのでしょうか。

代表的な例は、飲酒運転の禁止でしょう。飲酒運転に向けられる世間の目は当然のことながら厳しくなっています。だからこそ懲戒事由に加えておくこと、普段から飲酒運転は絶対に止めること、発覚したら厳正な処分をすることを周知しておくことは大事です。

また、社内での飲酒禁止というのもよくあります。「そんなことわざわざ定めなくても、常識でしょう」と思われるかもしれませんが、禁止事項として就業規則に規定しておくことは重要な意味を持ちます。企業というのは様々な価値観を持った人の集まりです。常識、暗黙の了解といった不確定な要素を排除し、誰もが理解できるような明確なルールを定めておくことは、事前にトラブルを防ぐことにもつながるのです。

ーはっきりと分かる形で示しておけば、後から入社した人にも伝わりやすいですよね。

はい。さらにいえば、お酒に関するトラブルというより、トラブルそのものを想定して就業規則で定めておくことも効果があります。

例えば、他人への暴行や器物の破損。結果的に軽微な処分になったとしても、懲戒事由に当たります。それは酔っていても酔っていなくても関係ありません。ポイントは、そのトラブルが会社にとって損害となるかどうかです。「○社の社員が酔った」というニュースは出ませんが、「○社の社員が酔って店員に暴行」となればニュースにもなりますし、会社からしてみれば大きな損害になります。そのような行為を防ぐためにも、就業規則の整備は必要になってくるのです。

飲み会は残業にあたる?ポイントは上司の指揮命令下にあるかどうか。

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ーもし飲み会への不参加が「コミュニケーション不足」とみなされて降格になったという話を聞いたことがあります。このように飲み会の不参加を理由に不当な扱いを受けるのは法律上、問題あるのでしょうか。

飲み会には、大事な取引先への接待などの「仕事の飲み会」と、「懇親会的な飲み会」の2種類があります。ただ、どちらにしても、飲み会への不参加が降格につながるということは、それは人事評価による決定として降格させたことと同じです。

人事評価において、コミュニケーション不足の重要な要素として飲み会への不参加が含まれているのであれば、会社は飲み会への参加を業務の一部と考えていることになります。そして、飲み会を業務の一部とみなすということは、飲み会の時間は労働時間となるため、残業代を支払う必要が出てきます。

ーそうなると、実際にご相談があった「飲み会の参加は残業になるのか」と言う問題にも関わってきますね。

実際にあった相談事例の中でもお話しましたが、飲み会は労働時間とみなさず、強制はできないとする考えが一般的です。でもコミュニケーション向上のためできれば飲み会には参加して欲しい。そのためにはどうすればいいのかというご相談が多くあります。

つまり、飲み会の参加が業務であると認めるのなら、人事評価の項目として認めても法的には構いません。ただし、その場合、飲み会は労働時間とみなされますので、残業代を払う必要がありますし、労働時間に関する規制も受けることになるため、もし私のクライアントであればあまりオススメはしませんね。何よりも強制はお互いにあまり気持ちいいものではありませんから。

ーたしかに、義務的に参加させられる飲み会は楽しめないし、誰にとってもいいものではないように思います。では、業務時間後の飲み会は残業にあたるのではないかと主張する社員から飲み会の参加で残業代を請求された場合、どのように対応するのがいいのでしょうか。

労働時間というものは「使用者(会社)の指揮命令下に置かれている時間である」と最高裁の判例では示されています。

ポイントは、参加者が上司の指揮命令下にあるかどうか。もし参加が強制であればそれは業務命令となり、残業代を支払う必要があります。しかし、任意であれば支払う必要はありません。

つまり、残業代が発生するかしないかは、飲み会への参加が強制なのか、任意なのかによって決まります。

飲み会への参加を強制することは業務命令。すなわち残業にあたる

ーでは上司から飲み会の参加を強制された場合、断ることはできるのでしょうか。また、こちらはパワハラやアルハラにあたるのでしょうか。

残業代が支払われることを前提に参加が強制であれば業務命令になります。業務命令を断ることは処分の対象になりますので、断ることは難しいですね。ただし、「飲み会の参加を強制すると、業務命令になってしまう」という認識を持っている人はまだ多くありません。このことは、社内で一度確認したほうがよいでしょう。

ー「業務命令になれば残業代が発生する」となれば、会社の経営面にも影響が出るわけですから、強制は業務命令になるという認識は持たないといけませんね。

ただ、よくあるのが、「業務命令ではないので強制はしないが、行ったほうがいいよ、行くべきだよ」といった半強制です。

厚生労働省はパワハラの6類型として、

1.身体的な攻撃
2.精神的な攻撃
3.人間関係からの切り離し
4.過大な要求
5.過小な要求
6.個の侵害

というのを定めており、この6類型以外でも業務の適正な範囲を超えているものは、パワハラに該当しうるとされています。

ー飲み会への参加を強制することは、これらに該当しないのでしょうか。

ご指摘の通り、ご質問の内容は6類型には該当しません。しかし、上司という立場を利用し、業務の適正な範囲を超えて相手の嫌がる行為を行えば、これは広い意味でのハラスメント、つまり嫌がらせとして捉えるべきかもしれません。

ーお酒は人とのコミュニケーションツールになりますが、その分トラブルを招きやすいことを再認識しました。本日はありがとうございました!

お酒は節度を持って楽しむもの。社員に改めて意識させることが求められている。

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会社で働くのであれば、飲み会が開かれることは十分考えられます。普段、聞けない話や、本音を聞ける貴重な場として、飲み会を楽しみにしている社員も多いはずです。

だからこそ、お酒によって社員同士のトラブルや企業の損害が起こってしまうのは残念なこと。また、すべての人が飲み会を楽しみにしているわけではないことも、人事は理解すべきです。

こうしたトラブルを防ぐために、就業規則で前もって厳しく定めておけば、社員に節度を持たせることもできます。人事として、社員の意識を今一度徹底させることが望ましいのではないでしょうか。

会社を運営するにあたり、様々な疑問が尽きない人事の取り組み。引き続きこの連載では、人事の抱える疑問を解消していきます。

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安部敏志
大学卒業後、13年間、国家公務員I種として厚生労働省、外交官として在シンガポール日本国大使館に勤務し、長野労働局監督課長を最後に退職、労働基準法・労働安全衛生法等の政策立案、企業を指導する立場にいた経験を武器に、現在は会社(事業)を守る立場として、地元の福岡で社労士事務所を経営。人事労務管理の秘訣を本音で紹介するサイト: Work Life Funを運営
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