【後編】「マネジメントが難しいというのは、単なる思い込み」出口治明(立命館アジア太平洋大学(APU)学長)

逆境ヒーロー!

2019/03/20
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華々しい成功の裏には、失敗や挫折がある。その失敗エピソードから成功の秘訣をヒモ解く『失敗ヒーロー!』。そのスピンオフ企画として新たにスタートした新連載『逆境ヒーロー!』。さまざまなフィールドで活躍しながら“ビジネスパーソン”として注目を集める人物にフィーチャーしていきます。今回は、日本の大学では初めての公募で選ばれた立命館アジア太平洋大学(APU)学長の出口治明さんが登場。前編では教養を身につけることの本質的な意味や、自分たちの力で働き方を変えていく知恵と勇気を与えていただきました。つづく後編では、誰もがぶつかる「挫折」や「逆境」の捉え方や、小手先の技術ではないマネジメントの本質について伺っていきます。

恋人と接するように、部下に声をかける

――最近では、さまざまなハラスメント問題についてのニュースが絶えません。上司は部下にどのように接するべきなのでしょうか?

出口治明(でぐち・はるあき)
立命館アジア太平洋大学(APU)学長。1948年、三重県生まれ。京都大学法学部卒業。1972年に日本生命保険相互会社に入社し、企画部や財務企画部に所属。ロンドン現地法人社長、国際業務部長を経て、58歳で退職。同年ライフネット企画株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。2008年、ライフネット生命保険株式会社を開業。2012年に上場、2013に会長に就任。2017年、取締役を退く。2018年、立命館アジア太平洋大学(APU)の4代目の学長として就任し現在大分県別府市在住。著書にベストセラーとなった『人生を面白くする 本物の教養』ほか、自分の頭で考え成長していくためのヒントが詰まった『知的生産術』が2019年2月15日に発売。歴史への造詣が深く、週刊誌などに多くの連載を持つ。

出口治明(以下、出口):上司という立場になったら、部下を恋人だと思って接すればいいんです。恋人に言ったら、傷つけたり怒らせたりするようなことは部下にも言わない。逆に恋人が喜ぶようなことを部下にもやってあげる。ただそれだけです。家では奥さんに何も言えないようなおじさんが、会社では部下にひどいことを言っている。それがパワハラですよね。

恋人をゲットしようと思ったら、一所懸命声をかけるでしょう? 声をかけなくても恋人ができるなんてことはない。それと同じで、部下といい関係を築いて気持ちよく働いてもらおうと思うなら、声をかけるしかないんです。好きやなと思って黙って見ていても、関係が進展しますか? しないですよね。部下も一緒です。

――世の中は複雑な問題でいっぱいだと思っていたのですが、出口さんのお話を聞いていると意外とすべてがシンプルかもしれないと思えてきます。

出口:「世の中にある問題は複雑だ」というのは、単なる思い込みなんです。人間はだいたい単純な動物ですし、人間の脳は昔から進化していないんですよ。おいしいものがあったら体に良くないと思っても食べてしまうし、楽しければお酒もついつい飲んでしまう。昨日だって、「原稿を書かなければ」と思いながら、つい12時過ぎまで飲んでしまいました(笑)。そんな人間たちがつくる社会が複雑なわけがないんです。「人間の脳は複雑だ」とか言ってカッコつけているだけです。

悩みの99%は「無知」から生じる

――それでもさまざまなことで悩むビジネスパーソンは多いですよね。

出口:悩みの原因の99%は無知、つまり勉強不足です。例えば「もうじき30才になるのに、自分のしたいことがわからない」といって一所懸命悩んでいる。この悩みの前提にあるのは、「自分以外の人間は、やりたいことをきちんと見つけて頑張っているに違いない」というありえない幻想です。人間というのは自分は何に適性があるのか、大抵の人が死ぬまで悩んでいるのが当たり前で、それを前提としていれば変に悩む必要はなくなります。

悩む前に、お父さんやお母さんに聞いてみたらいいんです。20代のうちにやりたいことができていたかと。「わからない」と答えるに違いありません(笑)。もちろん、大坂なおみさんのように、やりたいことがはっきりわかっている人はいますよ。でも、そういう人はごくごくわずか。特異な才能があって、それでご飯を食べられるという人なんてほとんどいません。

「人・本・旅」を通じて、幻想や思い込みではなくリアリティを学んでください。悩みの99%は無知から来ているんですから。いろんな本を読んだり、いろんな人に会ったりすれば、大坂なおみさんのような才能を持つ人のほうが希であることに気づけます。みんなはできているのに、自分はできていないという悩みは単なる思い込みです。

――リアリティが見えていないから余計に悩んでしまうんですね。出口さん自身は、これまで経験した挫折や逆境はどのように乗り越えてきたのでしょうか?

出口:前提として、挫折を経験したことのない人はいないですよね。生まれてからフラれたことのない人なんていないし、フラれて落ち込んだとしても一生家に閉じこもってる人は見たことないでしょう(笑)? だいたいの人が頑張って次の人を探しにいくんです。思い通りにいかないのが人生ですよ。辛いことがあった時は、おいしいものを食べてさっさと寝ればいい。

ある日、部下の顔色が悪いから「何かあったのか?」と聞いたら、「恋人にフラれて毎日眠れない」というんですね。夜通し恋人からもらった手紙を読み返していると。「そんなもん捨ててしまえ、捨てられないなら僕が代わりに捨ててやる」と言いました(笑)。恋人の思い出の品は、友達に頼めば喜んで捨ててくれますよ(笑)。

――ただ悲しんでいても時間の無駄ということですね(笑)。頑張ったところで思い通りにいかないのが人生だと。

出口:そもそも、頑張ればすべて上手くいくという前提が間違っているんですよ。人間はいろいろ勘違いしてしまう生き物ですが、「頑張ったらなんとかなる」というのは最たる勘違いです。

例えば中高生時代の部活動が野球部だったとしましょう。入ってきた後輩がいくら野球が好きで一所懸命練習したとしても、レギュラーになれないというのはよくある話でしょう。2、3ヶ月も一緒に練習をすれば、「こいつは上手だな、こいつは下手だな」とわかってしまいます。何かに熱中したことのある人は、必死に頑張ってもプロにはなれない場合が多々あることをすでに知っています。人生も一緒です。根拠のない精神論、数字のない思い込みは人間に幻想を抱かせてしまいます。

人間の脳は昔から進化していないのですから、挫折した時の乗り越え方も昔の人と何ら変わりません。おいしいご飯を食べて寝る。そして「人・本・旅」でよく勉強すれば、人間みんなちょぼちょぼであることがよくわかりますよ。

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