2016/09/26 公開

社員に優しい会社は、業績は伸びない。| ダメ人事の悪しき習慣 Vol.4

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筆者:曽和利光
京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。2011年に株式会社人材研究所設立。

人事の仕事をシンプルに表すと、「組織の問題を解決すること」にほかなりません。この場合の「問題」とは、「トラブル=困っていること」です。例を挙げれば、退職率が高い、メンタルヘルスに問題を抱えた人が多い、低業績者が多い、社員満足度が低い、社員の仲が悪い、会社のビジョンが明確でない、採用募集に人がなかなか集まらない……など、「組織の問題」は数多く存在しています。

しかし、「組織は(事業)戦略に従う」といいます。そもそも組織自体(もしくはその構成員である社員)が喜ぶこと「だけ」を考えていると、本当に解決すべき問題が何なのかを見失うことになるかもしれません。

その1つは、社員満足度。こちらは一般的に重視すべきだと考えられていますが、ある研究では会社の業績と相関は薄いとされています。社員が穏やかに日々を暮らすような、ぬるい会社の業績は伸び悩んでいる……という実情は、さもありなんと思えます。そうした時、「社員満足度の低さ」は単純に問題といえるのでしょうか。また、どんなことであれば、組織にとっての問題となるのでしょうか。

組織の問題なのかどうかを見極めることが求められる、人事の仕事。

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経営の視点から考えれば、人事の仕事は冒頭で述べた「組織は(事業)戦略に従う」のように、事業をうまく遂行していくための「手段」です。趣味のコミュニティのように、組織やその構成員の満足そのものが目的となのではなく、あくまで事業が発展していく礎として組織があるわけです。そう考えると、組織の問題と特定するための第一の条件として「その問題が事業に対して明確に悪い影響を与えるものであること」と考えることができます。

では、実際にどのような問題があるのでしょうか。具体的な例を見てみましょう。

1:高い退職率のなか、這い上がる人材が会社を強くする。

高い退職率によって、採用が追い付かない、新拠点が見出せない、予定の売上を達成できなくなるのであれば、これは組織の問題です。しかし、外資コンサルや外資金融など、弱肉強食の激しい競争文化における高い退職率についても同じことがいえるのでしょうか。ピカピカの人だけが残ってしのぎを削ることで、極めて高い会社の業績が生まれれば、それは特に問題ではありません。むしろ、低業績ながら会社にしがみつく人が多い状況のほうがまずいのです。

2:仲が良くないのではなく、社員同士がライバルとして切磋琢磨する環境。

社員の仲が良くないことが問題かどうかも、事業への影響によります。銀座のクラブもライバルが張り合うことによって、お店全体の売上がアップするといわれています。

社員同士の仲が良好であることは、必ずしもいいことではありません。それは事業でも似たようなことはあると思います。切磋琢磨が行われない仲良し集団では、なあなあになった結果、業績が落ちる……なんて光景はよく見られます。多少はギスギスしていたほうが、「あいつにだけは負けたくない」という雰囲気が出たりするものですよね。

3:明確でないビジョンだからこそ、社員が自由に取り組める。

「ビジョンが明確でない」というのも、よくある話です。明確でないから社員が戸惑い、行動の方向性が揃わずに力が分散してしまっている……これも、明確でないこと自体がそのまま悪いということではありません。私が昔在籍していたリクルートは、ある意味、ビジョンが明確でない会社だったといえます。「自ら機会を創り出し、機会によって自らを変えよ」という言葉が流布しており、理念もありました。

ただ、それも「社会への貢献」、「新しい価値の創造」とかなり抽象的なものでしたが、誰も文句など言いません。かえって「ビジョンが曖昧だから、自由にやれる」と考えたものです。もちろん、従順なタイプの社員だけで構成されている組織の場合は、ビジョンが明確でないことで業績が落ちることがあります。その際には、社員側に問題があるのでしょう。

社員に優しいだけでは、会社は伸びない。本当の「優しさ」を今一度考え直すべき。

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他にもいろいろありますが、一見すると組織の問題のように見えて、実はそれほど問題ではないとわかります。書けば当たり前のことばかりですが、どうしても人事の方は優しい人が多く、働く社員個々の視線に寄って組織の問題を考えてしまうため、「それは事業にとってプラスなのかマイナスなのか」という視点が抜けたり、つい無意識的に軽視してしまったりしてしまうのでしょう。

無論、社員を大切にするのは悪いことではありません。組織は結局人の集まりなので、構成員に支持されない状況では短期的にはうまくいっても、長期的には厳しいでしょう。しかし、両方とも大事とはいえ「事業が一番、組織が二番」という順序は変わらないように思います。我々は「失われた20年」を経験し、社員を大事にし過ぎた(甘やかし過ぎた)結果、大リストラに至った会社を山のように見てきました。それらの会社の大半は、「社員に優しい会社」だったのです。

この厳しい大競争時代では、「社員に優しい」という意味が変わってきています。「甘いことが優しい」のではなく、ときには厳しい姿勢がかえって社員には優しいこともある。「居心地いいのが優しい」のではなく、「前向きな居心地の悪さ」というものもある……そう考えると、人事は社員の一喜一憂に振り回されてはいけないのです。常に社会に役立つ組織には何が必要かを考えること。それがひいては、組織に残る人・去る人、会社・社会にとって、いいのではないでしょうか。

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曽和利光
京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。2011年に株式会社人材研究所設立。
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