2016/09/23 公開

「制度」の導入はメリットばかりではない。組織の問題を「制度」によって解決するのは、最終段階で。|ダメ人事の悪しき習慣 Vol.3

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筆者:曽和利光
京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。2011年に株式会社人材研究所設立。

私は人事コンサルタントという職業柄、様々な組織の方々から、社員の低パフォーマンスや退職、メンタルヘルスの不調など、その組織の問題について相談をされるのですが、それとセットで「だから、評価・報酬制度を整備したい」というように、何らかの「制度」によってそれを解決したいというお話をされることが多々あります。

経営者や人事の方が、すぐ「制度化」を口にするのも、気持ちはよくわかるような気がします。制度にしてしまえば、後はそれに従って組織を動かしていけばよく、効率的な組織運営ができる、そう思えるからでしょうし、実際、制度化のメリットはそこにあります。組織で起こるいろいろな物事を個別に考え、判断するのは大変です。公平性も維持できるかどうかわかりませんし、その結果、従業員の納得感も担保できるかわかりません。制度にしておけば、制度の出来不出来はあっても、明確な基準であることには変わらないので、従業員はグウの音も出ず従ってくれるかもしれません。言わば、「楽」なわけです。

しかし、それでも私は、「できる限り制度を導入するのは、引き延ばしたほうがよいのではないか」とご提案することが多いです。大企業であれば、すでに制度が張り巡らされており、その制度を踏まえた解決策を模索しなければいけないとは思います。また、まだほとんど制度らしい制度がないベンチャー企業や成長企業(規模を問いません)であっても、制度での解決を望む声が(当初は)多いのですが、私は「慎重に行きましょう」とよく申し上げます。それにはいくつかの理由があるので、解説していきましょう。

メリットばかりではない。問題解決のための制度化をできるだけ引き延ばす必要がある3つの理由。

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1:制度は時に自由を奪う。一度導入すれば簡単に変えることはできない。

まず、そもそも制度とは、人の行動を制約するルールであり、経営層や人事が従業員の皆さんと約束をすることで、自分で自分の行動の自由を奪うようなものだということです。人事制度は、報酬や配置などにも関わり、人の人生に大きく影響するので、一旦導入、つまり従業員と約束してしまったら、簡単に反故にすることはできません。ところが、今は変化の激しい時代です。昨日までやっていた事業が、明日も継続できるかどうかはわかりません。「組織は戦略に従う」ですから、事業戦略が変われば、組織の作り方や従業員に求める行動も変わります。そしてそれに適した制度も変わるわけです。そう考えると、できるだけ自社の「勝ちパターン」が見えてこない限りは、制度という固定的なルールを作るのは、なるべく待ったほうがよいということです。自由を自ら捨てることはありません。

2:どんな状況にも対応できる制度を作ることはできない。

次に、制度とは「最大公約数的」なものでしかないということです。「例外のないルールはない」ではありませんが、どこかに線引きすれば、必ずそれには当てはまらないケースが出てくるものです。例えば、報酬制度で、「このグレードは、基準給が年俸500万円」とすれば、中途採用の際、前職で510万円の人に入社してもらう時、「すまないけれども、当社規定により10万ダウンでお願いします」としなければなりません。「10万ダウン」には特に意味がありません。評価が低いわけではなく、単に「制度で決まっているから」です。昇格の規定を決めたら、すごい人材が現れて超法規的な特進昇格をさせたくても、なかなか勝手にはできません(まあ、本当は例外処理をすればよいのですが、あまりたくさん例外を認めると示しがつかなくなっていきます)。すべてのケースを想定した制度を作ることは不可能です。

3:制度化にしなくても、人事の個別対応で解決できる場合もある。

私が「制度化はできるだけ引き延ばすべき」と思う最も大きな理由は、上述のようなデメリットのある制度化をせずとも、経営や人事の「個別対応」でできることが本当はとても多いからです。

例えばの話をします。何らかの事業場の理由でリストラをしようとする際、ふつうは退職金の上乗せなどの何らかの制度を導入します。しかし、制度によってリストラをすると、よくある現象が「いい人から辞めていく」というものです。制度を一旦リリースすれば、それを使うか使わないかの判断は個人に移り、アンコトローラブルになります。そうすると、本来は本意ではない優秀層の流出につながるというわけです(もちろん、優秀層をロックするような制度の工夫もありますが限界があります)。

ところが、私が昔在籍した会社は、リストラを制度によってではなく、個別対応でやっていました。「勤続○年以上の人は、いつまでに退職を決めれば、こういう追加の退職金パッケージがあります」とするのではなく、人事担当者がダイレクトにローパフォーマーの方々に連絡し、面談をし、ミスマッチを起こしていることを語り、納得してもらい、新しい道を歩んだほうがよいと説得し、結局、合意の上での退職へと導いていました。制度ではなく、個別に対応していたのです。もちろんこれはかなり大変なことで、担当者は頭に10円ハゲを作っていたぐらいです。この例は最も過酷な極端な例で、人事担当者のメンタルヘルスを悪化させてまでやるべきとは言いませんが、要は「制度」ではなく「個別対応」でやることにより、組織にとって最も目的にかなった状況が実現できたということです。

安易に「制度化」で問題を解決しようとするのではなく、まずは人事が目の前の社員に真っ直ぐ向き合うことが大切。

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少し違うかもしれませんが、昔、伊丹敬之先生が「プロセス下手の構造好き」と呼んでいたものにも似ているような気がします。要は、ミクロな個別対応を細やかにすれば解決できることを構造やルールを作る(制度化する)ことでやってしまうと、過剰に負荷もかかれば、いろいろな副作用も出てしまう。だから、個別対応でできることであれば、まずは担当者が目の前の人々に対峙して、そこで踏ん張るということが先決ではないかということです。それでもダメなら、最終手段としての制度化に進むしかない。それが人事として、組織問題の解決の順序ではないでしょうか。

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曽和利光
京都大学教育学部教育心理学科卒業。リクルート人事部ゼネラルマネジャー、ライフネット生命総務部長、オープンハウス組織開発本部長と、人事・採用部門の責任者を務め、主に採用・教育・組織開発の分野で実務やコンサルティングを経験。人事歴約20年、これまでに面接した人数は2万人以上。2011年に株式会社人材研究所設立。
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