2016/10/20 公開

人事制度は誰のため? 人を増やしたのに問題が解決しない理由を考える。

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筆者:安部敏志
大学卒業後、13年間、国家公務員I種として厚生労働省、外交官として在シンガポール日本国大使館に勤務し、長野労働局監督課長を最後に退職、労働基準法・労働安全衛生法等の政策立案、企業を指導する立場にいた経験を武器に、現在は会社(事業)を守る立場として、地元の福岡で社労士事務所を経営。人事労務管理の秘訣を本音で紹介するサイト:Work Life Funを運営

こんにちは、社会保険労務士の安部敏志と申します。

最近は人手不足もあって、いかに優秀な人材を雇うかという観点から、面接で聞くべきこと、法令で禁止されている聞いてはいけないことなど、経営者や人事担当者から、採用・面接方法に関するご相談が増えてきています。現場から人手不足という悲鳴が上がっている……となれば、人事として何とかしたいと考えますよね。

でも、ちょっと待ってください!今抱えている問題の原因は、本当に人手不足ですか?

人手不足が本当の問題?「採用」と「片づけ」のよく似た共通点

採用の問題に関わる度に痛感するのですが、採用って片づけの問題に似ていると思っています。

部屋を片付けられない人は、「もっとスペースがあれば」と言いがち。でも片付けられない人ほど、買ったままずっと積み上げ続けている本が溢れていたり、データで持っている資料を紙でも持っていたりと、実はスペースの問題と言い切れない原因が多いんです。実際、重複しているものを整理しただけなのに、今度はスペースが余ったりすることも…… 採用もこれと同じです。

人を増やせば解決する問題も確かにあります。しかし、業務を行ううえでボトルネックとなっている部分を改善することで、生産性が向上し、人手を増やすどころか余裕ができたりする場合もあります。

というより、私がご相談を受けた中で、まず取りかかるべきことは業務改善の問題ばかりだったりします。

ある意味、採用というのは簡単な解決法です。人が増えれば、物事は自然と解決する……そんなバラ色の未来を想像します。でもそれって実は単なる勝手な期待にしか過ぎないのです。一例として、大学と共同研究・製品開発をしていた、とある会社をご紹介します。

こちらの会社からは、人手不足から仕事が滞ってしまう問題を改善すべく新規採用に関するご相談を受けたことが始まり。 経営者や人事部の担当者から、必要な人材の募集・面接プロセス、求める人材の要件などをお聞きするのは一般的ですが、本当に重要なことは、実際に配置される部署の管理職が求める人材の要件・人物像です。

ヒアリングの際には、必ず、なぜ今の人員ではダメなのか、人を増やせば問題は解決するのかという点には踏み込んで聞くようにしています。そうすると、本当の問題は、人員不足ではなく、今いる人員が適性の低い業務に忙殺されている、という真相をつかめるからです。

優秀だけど、信じられないくらいに事務作業が苦手な人はいる!

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この部署は、大学と共同研究・製品開発を担当しています。よって、専門的知識が必須であり、そのような経歴がある人ばかりの集団です。その中でも優秀なAさんが管理職を務めていましたが、その彼が仕事に忙殺されているというのです。 彼らは普段、何の業務に追われていたのでしょうか。

実は、大学との打ち合わせの報告書作成、出張旅費や業務経費の精算、毎日の出勤表の入力といった事務作業に多くの時間を取られていたのです。事務作業が得意な人からすれば「そんな作業に時間をかけるなんて」と言うでしょう。でも、私は様々な人と接するなかで、信じられないくらい、事務作業が苦手な人を知っています。Aさんは、まさにこの事務作業が苦手な人だったのです。

そこで、新しい人を採用するのではなく、メンバーの特性に合わせて業務分担をやり直すという業務改善の提案をしました。現在、この部署では、大学との打ち合わせには、専門知識抜群のAさんと事務作業を行うBさんの2人体制で臨んでいます。Aさんは苦手な事務作業から解放され、部下のBさんは専門知識がなくてもできる事務作業で活躍。結果的に人員不足と考えていた問題は解決され、部署全体として作業効率はさらに向上されたのです。

人事部は本音で相談されない!管理職の隠れた悩みとは?

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この事例において問題自体は解決したわけですが、そもそもなぜこのような状況に陥ったのでしょうか?

Aさんに本音を聞き出したところ、これは画一的なキャリア制度、つまり人事評価制度に原因があることがわかりました。

仕事を続けていけば、今後の昇進をどうするかというキャリアの問題が出てきます。そしてこの会社には、昇進先は部下を管理するマネージャーという役職のみ。マネージャーになると、部下の人事労務管理も行う必要があります。専門知識に優れているだけでは当然、管理職は務まりません。このような人事制度によって、管理職は、将来の訓練を見据えて苦手な業務も行わなければならなかったわけです。

この事例の大きな問題点は、「管理職が問題の本質を人事部に相談できなかったこと」にあります。私が指摘するまでもなく、この管理職は問題の本質が人を増やすことではなく、業務改善であることはわかっていました。でも、「人事制度を変えてくれ」だなんて言えば、「業務改善は現場の管理職の問題」、「管理職として問題あり」、「人事制度の問題に責任転嫁をしている」と返されると思い、本音を言い出せなかったのです。これは突き詰めると、人事部と現場の管理職のコミュニケーションや信頼関係の問題といえます。

人事制度は現場が効率的・効果的に動くための制度であり、単なるツールでしかありません。不具合があれば変更すればいいだけです。あなたの会社の人事制度は、他社の事例を真似した借り物の硬直的なものになっていませんか? 採用を考える前に、一度よく見直してみてください。

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安部敏志
大学卒業後、13年間、国家公務員I種として厚生労働省、外交官として在シンガポール日本国大使館に勤務し、長野労働局監督課長を最後に退職、労働基準法・労働安全衛生法等の政策立案、企業を指導する立場にいた経験を武器に、現在は会社(事業)を守る立場として、地元の福岡で社労士事務所を経営。人事労務管理の秘訣を本音で紹介するサイト: Work Life Funを運営