2018/04/25 公開

【後編】「私は、ものを作る人と売る人を一致させたくない。作ることを頑張るので、編集者には売り方や拡げ方を徹底的に考えて欲しい」朝井リョウ(小説家)

失敗ヒーロー!

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華々しい成功の裏には、失敗や挫折がある。その失敗エピソードから成功の秘訣をヒモ解く『失敗ヒーロー!』。今回ご登場いただくのは、『桐島、部活やめるってよ』で20歳にして華々しく小説家デビューを飾り、就職活動を舞台にSNS世代の精神性を書いた『何者』で直木賞を受賞された朝井リョウさん。独自の世代観を物語に絶えず反映させてきた朝井さんの小説家としてのこだわりとはどのようなものでしょうか。どうやらキーワードは「誰かのために書かない」ということのようです。

編集者には血も涙もなくあらゆる売り方を考えて欲しい

――小説家にとって編集者はパートナーのような存在だと思います。朝井さんにとって編集者ってどんな存在ですか?

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朝井リョウ(あさい・りょう)
1989年、岐阜県生まれ。早稲田大学文化構想学部卒業。2009年、『桐島、部活やめるってよ』で第22回小説すばる新人賞を受賞しデビュー。11年『チア男子!!』で第3回高校生が選ぶ天竜文学賞を、13年『何者』で第148回直木賞を、14年『世界地図の下書き』で第29回坪田譲治文学賞を受賞。他の作品に『星やどりの声』『もういちど生まれる』(第147回直木賞候補)『少女は卒業しない』『スペードの3』『世にも奇妙な君物語』『ままならないから私とあなた』『何様』、エッセイ集に『時をかけるゆとり』『風と共にゆとりぬ』がある。最新刊は解説に音楽家・つんく♂を迎え、加筆修正を経て文庫化された『武道館』(文春文庫)。

朝井リョウ(以下、朝井):私の理想の編集者は、言語化できないビジョンを共有した上で、信じて待ってくれる方です。私はいつも、書き終えた作品を提出するまで、抽象的なことしか言えないんです。書く前にプロットを考えるタイプなんですけど、そのプロットも、自分だけにわかるレベルの言葉でしか書けないんですね。たとえば、私はいま、バレーボールを題材にした長編を書いているんですけど、書きたいのは、熱い部活小説というよりも青く燃える少年史というか、一人の人間がまっすぐ歩いていくなかで様々な人物とすれ違っていき、そのなかでアスリートとして肉体が最大限に拡張されやがて衰退していく、みたいなことなんです。スポーツ、挫折、団結、友情、試合、勝った負けたのめくるめく展開、というより、残酷に流れていく時間とそのなかで起きる精神と肉体の変化を書きたいというか――みたいな説明を聞いて、わかりましたって信じてくれる人が理想です(笑)。小説を書いているときって、本当に無音なんですね。反応がないから良し悪しがわからない。書いている自分をどんどん信じられなくなっていくので、書いている自分を信じさせてくれる存在が本当にありがたいんです。

――編集者に背中を押されて、一緒に書いていくというタイプではないんですね。

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朝井:一緒に書いていく、という感覚は薄いかもしれないですね。頑張るから待ってて! みたいな気持ちです。私は、個人的な意見ですが、ものを作る人とものを売る人は同一人物であってはいけないと思っているんです。だから、私は書くこと、ものを作ることを精一杯頑張るので、編集者をはじめとする出版社の方々には、血も涙もなく、徹底的に売り方、商品の拡げ方を考えていただきたいんです。ものを作る人がものを売ることを意識しちゃうと、いまの時代はこの層に購買意欲があるのでこういうふうに書いたほうがいいんじゃないかとか、そういう不純物が入ってしまって、作品が死んでしまうと思うんです。だから、編集者の方々には、私が“自分でやるべきではないと思っているけど作品にとっては必要なこと”、つまりこの小説はどういう世代に響くのか、だったら連載は紙がいいのかWEBがいいのかはたまた書き下ろしがいいのか、表紙は写真がいいのか絵のほうがいいのか価格はどれくらいがいいのか、紙媒体で宣伝すべきかWEBで宣伝すべきか、むしろWEBで全文公開してから売るべきか、など、そういうことを冷徹に分析してもらいたいんです。

書き手が自ら「いまの若い子たちはこういうアプリを使うからここで連載したい」ってやっちゃうと、そのアプリに合わせて無意識のうちに文体やテーマを変えてしまったりするんじゃないかなって、そこが怖いんですよね。なので、編集者の方々には出版業界の外からも様々な情報を吸収してもらって、作品の拡げ方をたくさん提案していただきたいです。そんな人に出会うと、じゃあ私たち書き手もめっちゃ頑張っていいもの書きます! って気持ちになるんですよね。二人三脚で手を繋いで、というよりは、お互いの専門性を極めた状態で背中合わせで銃を構える、みたいな関係性が理想です。

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